市民と議員の条例づくり交流会議
|
ホーム > 市民と議員の条例づくり交流会議2006記録
> 二日目・第2分科会
|
◆第2分科会「再検証・都市計画における議会の役割」
=====================================================
「都市計画における地方議会の可能性」
長野基(跡見学園女子大学)
=====================================================
午前の報告に対するコメントをということだが、まず議会とは本来どういうものかという教科書的な理解から始めて、その後に現在の地方議会の役割、都市計画との関係について考えたい。
もともと議会には君主権力を抑え込む役割があったが、現在では、政治的対立の帰結を法律や予算という形で明文化し、共同体のあり方を決める役割を持っている。「共同体と歴史に対する責任を結果責任として負う存在」になったということだろう。この議会の基本的な機能は、(1)代表、(2)利害調整と合意形成、(3)意思決定、(4)監視・監督、(5)民主的正当性の付与、の五つに整理できる。
(1)は社会各層の代表者がいることによって課題や争点が明らかになるという機能。(2)は例えば予算の決定を通じて社会各層の欲望をパッチワークのようにつなぎ合わせ、利害統合を実現するという機能。ただし現在の地方議会については、予算の編成権限が首長にしかないため、議会が利益統合という「汗をかく作業」をしなくて済んでいるとも言える。(3)は立法と承認という機能。後者は、歴史的には課税の承認から始まっている。(4)は、今日拡大してきた機能で、権力の乱用や不適切な支出を監視するとともに、政策評価の機能にもなっている。(5)は、有権者を代表する議員が決定を行なうということに由来する。例えば住民投票では、仮に決定した政策が失敗した場合、決定に責任を持つ主体が有権者自身なので、不満のはけ口となって共同体のストレスを吸収する存在がない。議会による決定の場合は、議員が有権者の不満のはけ口になれる。
次に現時点で、地方議会が持つ法律上の権限を考えると、次の三点が重要だと思う。
第一は「拡大する意思決定権」。地方分権一括法が成立して以降、基本的に全ての領域について議会が決定に関与することが可能になった。「都市計画マスタープラン」についても、議会の議決を必要とした自治体が増えている。すなわち、議会・議員が責任を取らざるをえない領域が拡大しており、「首長部局が悪い」とか「住民の能力がない」等と批判すれば済む状況ではなくなったとも言える。例えば議会が議決した都市計画マスタープランについて、その将来像が何らかの失敗に終わるケース、10〜20年の時間軸では計画が間違っていたというケースも考えられる。その場合、それを議決した議会の責任が問われる可能性もあろう。
第二は「充実した監視・審査機能」。地方自治体法では、100条委員会の設置権限などがこの代表だ。議会の中での質問・審議以上に、こうした機能が保障されていることの重みを考えるべきだろう。
第三は「強固な拒否権」。一つは首長に対する不信任決議、もう一つは予算案を否決する権利だ。とくに後者によって、当局が行なおうとする事業をストップさせる権限を持っていることの意味は非常に大きい。都市計画だけでなく、何か問題が起きかけた時にストップをかける権限を議会が持っていることは重要である。
以上、議会の基本的機能と、現在の地方議会に与えられた法律上の権限を見てきた。これを十分に活用すれば、都市計画などを合理的に策定し運用することに議会は貢献できる可能性がある。しかしその前に、議会の行動のあり方はそれを選ぶ選挙のあり方によっても規定されるので、この選挙のあり様についても触れてみたい。
日本の市町村議会は基本的に大選挙区制で、個人単位(個人後援会単位)での競争が中心になっている。個々の議員は「地域割り」と「セクター(政策分野)割り」で独自の地位を作り、議会へ上がるという形である。この場合、個別地域の問題は特定の議員の「地盤」での問題に過ぎなくなり、他の議員はその問題を知らない、問題に気づいても行動に移さないという状況になる可能性がある。これを改善するために、地域の問題を「自治体全体の問題」であると気づかせ、争点化する何らかの仕掛けが必要だろう。
最後に、都市計画に対して議会が貢献する選択肢について考えたい。
第一は、現行の地方自治体法でも可能な、陳情や公聴会を積極的に活用すること。その中で住民からの提案を積極的に受け付けることもできる。もちろん住民からの提案が何でも良いというわけではない。むしろ議会での陳情審議や公聴会で、「選良」としての議員が住民提案の問題点などを指摘し「付き返す」ことも可能で、それが自治体の都市計画の内容を高めていくことになるのではないか。
第二は、改正地方自治法で可能となった、専門家参与の仕組みを活用すること。専門家の視点を議会での意思決定プロセスに組み入れることで、複眼的な意思形成が期待できる。
第三は、先に述べた個別地域での課題を自治体全体の問題として争点化する方法だが、会派・政党をあらためて議会の単位として見直すことが必要かもしれない。例えば、比例代表制の選挙であれば、会派・政党単位での政策課題のパッケージがつくられ、その中で個別地域の課題も争点化されやすいかもしれない。しかし現行法ではそれは不可能なので、その代わりに会派単位でのマニフェストを活用する方法も考えられる。
(次のページへ)
|