市民と議員の条例づくり交流会議
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◆第3分科会「予算をめぐる長と議会の関係」
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「予算審議改革と市民・議会制御の可能性」
野村 稔 (全国都道府県議会議長会 前議事調査部長)
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私は全国都道府県議長会で長らく働いてきた。都道府県、市、町村それぞれに全国議長会があるが、あまり長くやっている人は少ない。なぜか。問い合わせに間違えば怒られる、即答できないと不勉強だとレッテルを貼られる。かつて東京都議会事務局は160人から180人ぐらいいたが、最近、職員が少なくなった。それだけ議会事務局が弱くなったということだ。以前は、職員の減少について執行部と議会は別だと議会事務局が跳ね返していた。しかし減らされたとしても140人。都道府県議長会は27人しかいないが問い合わせには即答できるようにしていた。現在、千葉の幕張に市町村アカデミーというのがあり、ここで私は議会の講義を私が担当している。本当であれば市町村がやるべきだが、10数年も続けているのは、議会のベテランが市町村の議長会に育っていないから。私には、議会について損得抜きにやってきたという自負がある。
私たちの団体のトップは、総務省からの天下りばかりだった。ここでイエス・サーと言っていてはだめです。市議会、町村議会の議員定数がいい例だ。分権一括法により、議員定数は地方自治法に基づく減少条例を敷かなくとも、個々の条例で決められるようになった。市町村では法定の定数を14%下げたものが上限となったが、これだけ自治権が減った、議会の裁量が減ったのだということを認識してもらいたい。当時、それ以上に減らしているから実害がないなどとは言わないでほしい。むしろ分権時代においては上限は無くなてもいい。つまり、議員数を増やして報酬を下げる、逆に議員を減らしてその分報酬を上げるといった選択肢が増えてしかるべきだ。しかし市と町村の議長会はそれを呑んだ。都道府県は私が部長だったので受け入れなかった。議員定数の問題は議会政治の基本であり、これを事務方で決めるのはナンセンスだ。こうした調子で私は歴代の事務総長とやりあってきた。厳しいことも言うが、私ほど議会の味方に立って、マスコミや学者などと論争をやっている者はいないはずだ。
私も、昨日お話をされた大森先生とともに、都道府県議会制度研究会へ実務家として入っている。大森先生は昨日、議会の招集権の話をされたかと思うが、これについては意見が分かれている。西尾勝先生は、議会の招集権は、当該団体の統括代表権を持っている長が議会を招集しているのであって、単なる執行機関の長が招集するわけではない、としている。それを大森先生は、「それは明治時代で終わった」ということを言っている。私は、都道府県議会制度研究会のすべての学者に反し、招集権はいらない、必要ないと言った。全国で議会を招集しない首長はいない。議会に不信任決議をされた長野県知事でさえも議会を招集する。むしろ、招集したあとに開会宣告しない議長がいるので心配なのだ。
研究会の現在のテーマは議員の位置づけについて。自治法には、議員は常勤なのか、非常勤なのかといった位置づけが書かれていない。昭和22年に定められた自治法に規定しなかったのが間違いだった。戦前は、議員は名誉職で無報酬と書かれていた。自治法により報酬が支給されるようになったが、名誉職に相当するものは書かれていない。だから総務省は、会期以外の議員活動はすべて政治活動、悪く言えば選挙の事前活動であって、公務ではないとしている。もちろん選挙の事前活動もあるが、住民の意思を反映させるための活動もある。いまは議員活動とは何かを判断する尺度がない。そのためにも、議員の位置づけが不可欠であると考え、議員の定義を「公選職」とする提案を行った。平成17年12月の地方制度調査会の答申では、公選職については引き続き検討するとされた。議会のあり方を考える上でもここが一番の核心であったのに、それが外された。今回の自治法改正は大改革だったと言われるが、私は今週の「自治日報」に、これは「落穂拾いの改革」だと書いた。また「議員情報レーダー」75号に「別の角度から議会関係の地方自治法関係を見る」と題し、私の署名入りで議会のあり方から見ると本質的な改正ではないと書いた。こういうことを言う者がいない状態だ。
■予算審議の着眼点
議案の中で一番大切なものは予算であり、その次に大切なのが決算だ。そしてそれを担当する常任委員会がない。これを不思議なことだと感じてもらいたい。自治法制定時から無いため、議員は不思議とも思わない。国会には予算常任委員会がある。予算審議が一番大事なことなので、しっかりと議論していただきたい。
また、予算編成権は長に専属しているため、議員は3月になり予算が提出されてから初めて受けてたつ横綱相撲をやっている状態だ。予算が出されない限り審議ができない。これでは遅い。ぜひ12月議会で、来年度予算について、議会の要望事項、重要事項を決議し、長に送ってほしい。議会で一致できないものは、会派、あるいは単独で出してもいい。こうしたことをやらないと、政策で遅れてしまう。旧自治省の見解では、予算編成権に議会は介入するなとしていた。しかし介入しているところはある。鳥取県の事例紹介があったが、昭和30年代から岡山県議会がやっている。以前、岡山県は、財政課長査定でこれだけ、総務部長査定でこれだけ、副知事査定でこれだけ、知事査定でこれだけとすべて議会に報告していた。まずは12月議会で、来年度予算についての要望などを出していただきたい。そしてその要望がどの程度当初予算に盛り込まれているかを審議することからはじめてほしい。予算編成権がないのだから仕方がない。できるところからやってほしい。
予算の基本方針にはもっともらしいことが書いてある。本当にそうなのかどうか、皆さんは知る必要がある。ところが資料には予算と予算説明書しか出されない。県の財政課長が見ても、予算書と予算説明書では分からないと言っているのに、議員にはそれが分かるという前提で議論をしている。資料要求をすればいい。予算編成の基本方針が予算にどう具体化されているか、財政の健全性は確保されているか、決算審議の指摘事項、監査委員の意見は取り入れられているか、行政の効率化、能率化は図られているか、単独事業、補助事業はどうなっているか、新規事業、廃止した事業はどうなっているか、こういったものを資料として要求してほしい。国会の予算委員会では、1メートルぐらいの資料を出している。地方議会でそれを要求しているところは無い。来年度の予算編成、補正予算の時からやっていただきたい。議員でさえ執行部から丁寧な説明を聞いても分からないものが、住民に分かるわけがない。議会広報には「一般会計原案可決」と出るが、原案が分からない住民に対し、原案可決と説明して何になるのか。ところが自治法には議会の資料要求権が明記されていない。国会には国会法104条に資料要求権がある。自治法に資料要求権が書かれなければならない。
その上で、予算編成の着眼点を確認していただきたい。「財政の健全性は確保されているか」と夕張市議会で聞いたならば、「確保されている」と答弁はできないはずだ。決算審議の指摘事項、監査委員の意見が取り入れられているかについても議会は聞くべきで、それについての資料を出させるべきだ。議会での質問、発言、提言内容がどれだけ実現したのか、あるいは実現していない理由は何かを出させるべきだ。またこうしたものを議会広報に載せることで、議会が何をやっているかを住民にアピールしてもらいたい。
採択されたことは議会がしっかりと責任を持って実現してくれるということになれば、住民は請願・陳情にやってくる。行政の効率化・能率化については、親方日の丸の公務員にはできない。行革の原案をつくる、基本的な問題点を指摘をするのは議員だ。民間の荒波を受けた人、特に会社を経営している人だけができる。こうしたことを予算審議の際にしっかりと行ってほしい。
■予算審議の方法
予算審議の方法は、常任委員会への分割付託方式が圧倒的に多い。委員会制度はアメリカで発達した。連邦議会は法案が出てくるたびに特別委員会をつくる。一議会で百いくつの特別委員会ができたこともある。そういった中で、毎年出てくる議案があり(予算などがまさにそれ)、これを審議するために常任委員会がつくられた。つまり特別委員会から常任委員会ができるというのが普通の形だ。わが国でも、特別委員会を設置している議会は、自慢げに特別委員会でやっていると言うが、毎年出てくるものについては常任委員会で審議するのが本来のあり方。
予算特別委員会方式でやる場合、特別委員会は議長を除くすべての議員で構成することになる。各常任委員会を分科会として使い、審議はそこで行われる。これでは分割付託と同じだ。自治省は、50年来、行政実例において、議案の一体の原則から常任委員会への分割はできないと言ってきた。松本英昭氏は『逐条地方自治法』における109条の解説で、予算の分割審査が行なわれているが、委員会での「予算の修正については、本議会で修正することが適当である。そのため修正を希望する委員は委員会で修正の動議を提出する旨の意見を述べて原案に賛成する運用が考えられる」と述べている。これは地方議会の実態に即した見解である。こうした形をとらなければ、議会の運営はうまくいかない。
今回の自治法改正で、平成19年度から常任委員会に一議員は二つ以上入れることになった。現在、会議規則、委員会条例を都道府県、市議会、町村の各議長会がつくっている段階で、秋ごろにもできる予定だ。昭和22年から31年まで議員はいくつでも常任委員になれた。今回の改正は、かつてのあり方に戻っただけだ。今度は予算常任委員会を作ってもらいたい。
定例議会の回数には、制限が無い。だが、どこでも4回と固定されているのではないか。決算は10月なのに、なぜ10月に定例会をやらないのか。倉吉市が議会特区を提案した際、市町村議会の定例会回数の制限をなくしてほしい、と書いたところ、小泉首相が、「地方議会は回数が決まっているの?それはおかしい」と言い、制度が変わった。だが、良い制度をつくってもしっかり運用しなければ何にもならない。先例にとらわれてきたからだめなのだということを、考えていただきたい。
次に原案可決の問題点について述べたい。都道府県、市町村に首長はそれぞれ一人ずつしかいない。それに対し議員は沢山いる。東京都には127名の都議会議員がいるが、原案可決ということは、一人の知事と議員127名の考え、政策は同じことを意味する。議会として追加、削除するべきことがないのでは、議員は「ウマシカ」だということだ。たくさんの議員がいて、その中でいい意見が出されれば修正していく。修正動議ができないのであれば、「予算組み替え動議」を出して、相手につくらせることもできる。この費目を5千万円増やす、この費目を3千万円減らす、そういったことを20項目でも出して、相手につくらせればいい。以前、東京の狛江市議会ではやったはずだ。出した修正動議がいくつ成立するかは政治的な話し合いになる。こうしたことによって議会は活性化する。議案は出さなくとも、政策を提言していることになるのだ。
条例についても同様で、条例提案ができないという前に、条例制定・執行にあたり注意すべき点を付帯決議でつけていけば良い。この付帯決議で議会の政策が発揮・表示できる。議会からの政策提言がないから、いつまでも議員定数削減について言われることになるのだ。議案の提案権を定数の8分の1から12分の1に緩和したから、議員も政策条例を提案すべきだと言われる。しかし議会事務局を強化しないことには補助者がいなくて出せない。昭和22年から31年までは、議員一人で条例も決議も意見書も出せた。自治法改正により、委員会に条例提案権が認められたが、委員会に条例提案権はいらない。議員一人でも提案できるよう元に戻せばいいのだ。これに対し、混乱するという理由で議会事務局長が反対した。皆さんは議会事務局を支えていかなければならない。
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