市民と議員の条例づくり交流会議

第4分科会「コミュニティ活動と議会」

=====================================================
提起「コミュニティ活動が直面する課題と議会の役割―市民が10年かけて移動サービスの制度をつくった
又木京子(神奈川ネットワーク運動政治スクール理事長)
=====================================================

■議会改革の取り組み/課題の解決へ向けて

 私は厚木で市議会議員を2期と県議会議員を2期それぞれ経験してきた。議員になってびっくりしたのは自由討議がないこと。初めて議員になった時には、自由討議になったらどうしようと思っていたがそんな心配はいらなかった。また、議会は制度を作るところだと思っていたが、制度も作っていないことがわかった。市民と議会がつながるためには何が必要かと、いろいろ考えたがどのように取り組めばいいのか分からなかった。まずは議会が変だ、と議会改革に取り組んだ。2期目には、同じ2期目の議員とともに取り組み、1年目は失敗したが、2年目には実現。議会改革の特別委員会を作り、私が委員長になった。保守の強いところだが、議会の中で最低限で合意のできるところで改革していこうと取り組んできた。

 また、議員は質問ばかりしていて、なぜ提案しないのかと、厚木でNETの市議が4人になったころにはどんどん議員提案をしていこうと毎回提案に取り組んできた。今ではもっと市民の生活に即した課題を解決するために何が必要かをじっくりと考え、現実的な提案をしていけるよう条例研究会をつくっている。

 今の自治体議会は制度を作っていない。国から言われたことを首長がそのまま提案し、議会は質問、意見、要望を加えているだけだ。こんなことでは私たちの生活は良くならない。制度をつくることが難しいのであれば、自分たちで、市民のNPO活動で必要なものをつくっていこうと考えた。その中で必要ならば制度にしていけばよい。

■コミュニティの課題と解決

 コミュニティには多くの課題がある。それを解決するための方法は、7つくらいに整理できる。1番目は、これが一番多いのだが、まずは愚痴を言う。憂さ晴らしをする。気がつかなかったことにする。忘れる。ほとんどはこうして解決する。これは結構大切なことだ。

 2番目は、協働の力で解決する。コミュニティワーク、NPOをつくり解決していく。移動サービスや子どもたちの保育園、外国人の日本語教室などたくさんある。社会の課題をコミュニティで解決していく方法。

 3番目は、課題を陳情や請願、要望に変えていく。しかしこれは言葉がよくない。陳情とは実情を述べて公的機関に善処を要請すること。請願とは請い願うこと。私は公的機関に請い願うことなどしたくはない。また要望には制度がない。愚痴や胡散晴らしと同じで、提案したことで気晴らしにはなるが、制度をつくることにはつながらない。

 4番目に、条例提案をする、直接請求をする。これは本当に大変なこと。首長は1分の1、つまり1人で条例提案ができる。議員は12分の1、そして市民は50分の1。重みはぜんぜん違うが、制度的には市民にも提案する制度がある。

 5番目は、それでは間に合わないと議員を出していく、もしくは議員になる。

 6番目は、議員を出すだけでは何もできないので、市民や他の議員と一緒にパーティー(地域政党)をつくり、政策形成力や提案力を大きくしていく。

 7番目は、ピアカウンセリング、つまり解決へ向けた条例提案や直接請求を経験した当事者が、当事者として同じように課題を抱える市民のアドバイザーになること。先日から立法のサポート機関として、議会事務局の話があった。しかし、市民の課題を解決するためのサポートは、経験がなければできないのだ。

 ここまでいくと市民社会は結構立派なものだ。私たち神奈川ネットはこのあたりまでできているのではないかと思っているが、それはひとえに首長と私たちでは政治的な距離が大きかったから。もし首長が私たちに近ければ、もっと別のやり方になっていたかもしれない。

■コミュニティ活動と政治/実践

 コミュニティ活動が政治を動かしてきた一つの事例として移動サービスの報告をする。私の町の社会福祉法人では、送迎の車を昼間使わないのはもったいないと、お年寄りや障害者たちが好きな場所に出かけられるように活用していた。社会福祉協議会の障害者などへの移動サービスは、病院や役所、学校などには行くが、カラオケやパチンコ屋へは乗せてくれない。生活というのは、病院や役所に行くだけではなく、買い物はもちろん時には居酒屋にも行きたいし、選挙演説この応援にも行ってみたい。そういったことを可能にするためには自分たちで移動サービスをつくるしかない。生活を豊かにするための外出支援として、自分たちで社会福祉法人の中に移動サービスをつくった。

 しかし、人様からお金をもらって乗せると白タク扱い。なんとか制度をつくりたかったが、市長も議会も理解を示さない。制度がつくれないのであれば、こうした取り組みを広げようと神奈川ネットワーク運動で移動サービスプロジェクトをつくり、各地域に福祉有償運送を広げていった。実際に広がれば、これを制度化しようとするところも出てくる。特区の動きがでてきたときには大和市が真っ先に手を上げた。そこで2004年に移動サービス、福祉有償運送の特区を県全体に拡げていくためのプロジェクトをつくった。広げるための提案の仕方も工夫した。移動のNPOがあるところは、議会でも提案しやすい。NPOがなくても国や県が動いているのを見て考えている自治体もある。NPOはあるが首長や役所が外を向いている自治体など、それぞれの議会で対応は全部違う。議員はそれぞれ色々な提案をしていった。その結果、神奈川県は全国でたった一県だけ、全県エリアにこの福祉有償運送の制度を取り入れることになった。つまり、各市町村それぞれが動いたからこそ、県が安心して全県エリアで福祉有償運送の制度をつくることができた。これがコミュニティ活動と政治活動をした市民や議員、政治パーティーが連携して1つの制度を作っていった報告。市民とコミュニティ活動の長い10年かけた政治の歴史が、福祉有償運送という制度をつくった。

 ほかにも事例はいくつもある。いまでは自民・公明をはじめすべての政党が子育て支援を言っている。これもコミュニティで認可外の保育園を市民がつくってきたこと、公的保育だけでは間に合わないと、NETやNPOなどというよりももっと前から、市民が共同保育として認可外の保育園をつくってきた。これがそもそもの始まり。昨年取り組んだ住民基本台帳の大量閲覧の問題も、子育てや高齢者の支援活動をしているNPOや市民団体から声が上がり、条例提案をしてきた。このように、私たちは生活の中から制度をつくっていこうと活動している。もちろん制度化するのではなく、ボランティアが広がっていく方がいいこともある。外国人の日本語教室をやっているが、これなどは制度化する必要はない。NPO支援なども考えられるが、無理に制度で縛る必要はない。コミュニティで課題を解決するためには、本当に何が必要かを考えることも、ピアカウンセリングの役割でもある。

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
■質疑

会場参加者: 個別課題だが、福祉有償運送は、国土交通省がこの制度を作りなさいとして各自治体でも動いてきたものだと考えるが、この移動サービスに関して、議会で何を提案したのか。

又木: 最初は入り口の問題があった。福祉だとはいえ人を乗せてお金を取ったら違法。しかし社会福祉協議会はやっている。無償だとはいえども、それは人件費を税金でやっているだけ。市民が同じことをやると有償となり違法となる。まずは社協のやっていることを整理し、違法であることを何とかしなければならなかった。議会ではここをやった。
 次に、国はこういう制度をつくってもいいとしただけ。基盤整備のための協議会を設置することを提案した。提案の仕方には工夫をした。はじめに提案が通らないと、他のところでも通りづらくなる。通りやすいところから、通りやすいやり方で提案していき、徐々に広めていった。

会場参加者: NPOは、必要な事業を行っているという自負や満足感はある。行政に補助金を出せということはよくあるが、制度を変えようという発想にはなかなか立てないので今日の話は大事だと思った。

又木: 補助金の話でいうと、実は自民党と業界団体はずっとこういうことをやってきた。まずは制度をつくって、それから税金で工事を始める。これは裏金でもなんでもなく、表で正式に制度を提案して、お金が入ってくる仕組みをつくってきた。このミニ版が、補助金がほしいというものか。市民利権、市民が制度を提案してお金を持ってこようとするのはオープンにやればいい。商店連合会やスポーツ団体が補助金を取りにいくのと同じ。もっといい提案をしたり、公開性を高めたりしながらやれるようにアドバイスをしている。

坪郷: 栗山町の場合でも、最初から条例を作るのではなく、議会報告会をして議会と市民の接点を設ける、議会を公開、オンデマンドで中継していく中で、議会を変え、条例制定へと結びつけた。
 条例を作るときには、先行条例を見ながら作っていくという形になりがちだが、これでは地域の実情に合わない。本来は、自治体や地域の課題を市長が責任を持って整理・公開していくべきだが、それもまだまだ不十分。そういう意味でも、議会が自治体や地域の課題をできるだけ整理・公開し、市民に還元していくことから議論が始まるのだと思う。その際には、常に現場に立ち返るということが重要。かつては自治体と業界団体の癒着が問題になったが、最近では事業委託などで、NPOも補助金を取るためにぶら下がっているという声も聞く。すべてうまくいっているわけではないが、地域における市民活動やNPO活動が地域の問題解決の基点になることは間違いない。

会場参加者: 都市内分権についての質問。練馬区は人口が69万人で、議員は50人。自治の単位、コミュニティや地域の課題を解決するためにどうあるべきか考えている。地域自治区の制度は使えるのか、といったことについてアドバイスがあれば。
 また、神奈川ネットでは条例提案を積極的に行っているが、議会の活性化について具体的にどのような効果があったのか。全国政党との関係はどう変わったのか。

又木: 条例提案で議会が変わったかは分からない。条例提案や直接請求は、法律や制度的には提案できるはずなのに、(議員もそうだが)職員が非常に嫌がる。議会改革といっても行政は嫌な顔はしない。やはり何かあるのではと感じている。
 昨日の議論でも、議会審議の際に「職員は外へ」と言えば、それだけで議会が変わるという話があった。条例提案はまさにその状態。職員が黙って議会を見守る状態をつくったのは大きいのではないか。他の議員も一生懸命に質問をつくる。一番変わるのは提案する私たちNETの議員。質問するのではなく、人の質問に答えることになる。議員の条例提案は自由討議に近い。いまは、他の会派が提案し始めたらどうしようと考えている。
 自治体政府と考えた場合に、政党は国ではなく、その自治体に向き合うことになる。政府に向き合ってこその政党。自分たちの自治体の政府に向き合うのであればローカルパーティ。それができないのは政治資金の問題があるから。これが整理出来ればローカルパーティは出来てくると思う。好きで国の政党に属しているわけではないという議員もたくさんいる。

坪郷: 地域自治区は、制度的には行政区として制度化できる仕組み。諮問機関として地域協議会という審議機関を置くことができ、自治体の単位として設定できるというもの。いずれにしても既存のコミュニティの組織として、住民協議会や自治会町内会などがあり、これらは行政区でも自治区でもないが、こうした既存の組織との競合、関係の整理などが必要で、難しい面がある。また、たとえ諮問機関であっても、選挙を行うなど開かれたものでなければ自治の単位としてどうかという疑問もある。大規模都市をどうするのかという議論は、ここ10数年なされてきたが、ようやく取り組みが始まったというところ。

会場参加者: 住基台帳大量閲覧の防止条例は、鎌倉など成立したところと、同じように取り組んで出来なかったところもある。この結果についてどのように考えるか。

又木: 住基台帳の問題は、市民の生活に直結する問題、自分や家族の問題なので、全部直接請求でやっていきたいと考えていた。しかし直接請求はハードルが高く、二宮と厚木で直接請求を行ったものの、横浜・川崎などの大都市ではやはり難しかった。そんな中、鎌倉と藤沢で、早い時期に議員提案をした。一番初めの鎌倉は、議会全会派一致で提案、成立した。これは選挙直後だったことが大きい。しかし藤沢は、共産党と市民の党とネットで提案したが、待ってましたとばかりに否決された。この結果が多くの自治体に影響したと考えている。通った鎌倉ではなく、藤沢で否決されたというイメージが出来てしまった。しかし直接請求は簡単には否決できない。厚木市は、直接請求の最中に要綱を3度変えた。その結果、制度そのものは提案した内容に近くなったが、最終的に直接請求自体は否決。市民が直接請求で条例をつくろうとしているときに、行政が要綱で対応するというやり方を市民が指摘できないことが政治の情けなさでもある。

会場参加者: 住民基本台帳法は法改正の方向が見えていた中、それまでの駆け込み閲覧を防ぐという実を求めたのか、条例提案して通していくことに重点を置いたのか。

又木: どちらもある。提案したのは現場の市民から。地域で被害を受けたという声が大きかった。NETがということではなく、市民が制度を提案しようとしたということ。ただ現実的に直接請求は大変なことなので、半分ぐらいをNETが議会で行った。市民が制度を提案しようとするテーマはあまりないが、このテーマはまさに市民のテーマであった。市民の政治経験を積み上げたかったということももちろんある。

※会場参加者の発言などの文責:市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会(事務局)

次のページへ

ご連絡先●市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会事務局
〒102-0083 東京都千代田区麹町2-7-3-2F(市民立法機構気付)
TEL:03-3234-3844/FAX:03-3263-9463/E-mail:jourei-kaigi@citizens-i.org