市民と議員の条例づくり交流会議
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◆第4分科会「コミュニティ活動と議会」
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はじめに「コミュニティ活動と議会」
◆坪郷 實 (早稲田大学社会科学総合学術院教授)
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はじめに二日間の議論において印象に残ったことをお話してから、議論に入りたい。
■議論の振り返り―議会のあり方、市民自治体
栗山町の議会基本条例は、議会が情報公開を進めながら市民とのコミュニケーションを図る議会報告会を行っていくといったプロセスを経ながら、議会主導で制定された。そしてその条例で議会を「討論の広場」だと位置づけた。これまで議会はそういったイメージではなかったのではないか。議会は「こういう場」だと明確に位置づけたことは画期的だと思う。私たちもこの「議会は討論の広場だ」という認識から出発したい。
これまでも多くの自治体で行政への市民参加は行なわれており、市長が主導する市民参加の仕組みは沢山ある。市民参加も進化し、ニセコ町や三鷹市などでは、ゼロから基本構想、計画、条例づくりを行う、市民がゼロから議論をはじめ、原案をつくっていくといった市民主導のものも出始めている。それに対して、議会が主導して行なう市民参加というのは、一体どのような形で可能なのか。それを考える上で、市民と議員の関係、議会全体と市民の関係というのが問われてくる。
そして、議会が討論の広場であると位置づけた上で、今後議会はどのように市民と対話を始めていくのか、またどう深めていくのか。市民の意見をどのように反映していくのかといった、市民と議会を繋ぐ様々なしくみ、あるいはそれをどう実践していくのかが課題となる。
今回の会議の大きなテーマとして、市民自治体という言葉が使われている。市民自治体とは、市民がつくる団体として自治体を捉えていくという考え方だと思う。市民が自治体を作るのであれば、制度や仕組みも多様であっていい。このまま二元代表制を選ぶのか、現在の全国一律の制度の仕組みを改革して、もう首長は直接選ばなくてもいいのか。議会が政府の役割を果たしていく、シティマネージャーのような市長を選ぶといった議会が主導する自治体の仕組みをつくることも可能で、市民がそれを選んでいく、そのための選択肢を拡げていくことが重要だと思う。
こういったことを踏まえ、コミュニティ活動と議会について3つの論点について整理する。
T.都市内分権という課題
現在、都市内分権、近隣政府、小さな自治といった言葉で議論されている問題についてだが、今回このテーマに直接関係した報告はないので、会場から関連した実践例などがあれば、ご発言いただきたい。
都市内分権には、まずは合併との関係で、合併特例区つまり合併以前の市町村を単位とした特例区を設置するという仕組みがある。そしてそれとは別に、地域自治区という形で都市内分権を行っていくという方法もある。地域自治区の内に市役所の地域事務所を置き、地域協議会を諮問機関として設置し、地域の様々な課題について議論をしていく。こういった地域自治区の仕組みをつくることが可能で、もちろん条例でつくっていくことになる。この地域自治区をどう位置付けるのか、あるいは財源や権限の配分等をさらに進め本格的な都市内分権を行なっていくのかということについては、まだ実際に始まったばかりなのでこれから議論されることになる。
現在は、首長主導による地域自治区や市民自治区といった形での都市内分権の試みが行なわれているが、自治体議会との関連で都市内分権を考えると、議会主導で都市内分権を行なう場合には、どういった仕組みが可能なのか、といった論点もある。
U.コミュニティ活動と議会への政策提案
昨日来、議会の改革、議会や議員のあり方、アイデンティティに焦点を合わせ、自治体の企画立案、条例づくりを議会が主導で行なっていこうという議論がなされた。しかし、もうひとつ、地域において市民が主導して条例や政策をつくっていく回路もある。こうした取り組みは様々な形で行われてきた。コミュニティ活動という日常のさまざまな市民の活動を基礎にして、その生活の中で直面した課題について、それを解決するための具体的な政策や制度を自治体議会に提案していくという方法。
まずは、コミュニティ活動とは一体に何かということについて確認していきたい。コミュニティとは、自治会・町内会だという見方もある。しかし、実際に大都市部では、組織率が5割を切っているところもある。自治会・町内会は、年中行事である運動会や盆踊り等の行事を行うことで地域の人々が交流する場をつくるというのが主で、これは私の評価だが、問題解決型の活動をやっているところは少ないという印象がある。
また、いくつかの自治体は、自治会・町内会とは違った形のコミュニティの仕組みを作ってきた。例えばコミュニティセンターを設置し、住民協議会をセンターの運営組織として立ち上げる。この構成メンバーに、自治会・町内会のほか、地域の多様なグループ、場合によっては、NPOや公募の住民が入ることもある。あるいは地縁組織よりも、もう少し緩やかな住民組織をつくったところもある。これもコミュニティ活動ではある。しかし、これらはセンターに登録された多様な文化・芸術、サークル活動へ場の提供を行うのであって、地域の問題を解決するためのさまざまな政策や制度を提案することは、この枠組みでは出来ない。新たに市民活動支援センターのようなものをつくるところもある。地域のコミュニティ活動に関連したさまざまな仕組みがつくられてきている中で、どのようにコミュニティ活動を整理し直していくのかという課題が出てきている。新しい住民組織をつくるという発想で制度づくりを考える、自治会・町内会、住民協議会、NPOなどの市民活動支援センターといった複数の組織や制度がある中で、全体を新しい住民組織として再編していこうという議論も出てきている。
このようにコミュニティ活動というのは多様な側面を持っているのだが、ここでは市民主導の条例・政策づくりという観点から、特定の課題についての活動を念頭におきたい。課題解決型のNPOや市民活動が、環境や福祉、まちづくりなどの多様な領域で、各地域に広がっている。こういった市民活動・NPOが地域で活動しながら、地域における政策課題の発見と整理を行い、具体的な政策や制度の提案を行っていく。こういった回路が確実に出来てきているのではないか。これについては従来から実践してきた神奈川や東京をはじめとしたネットの事例があるので、ご報告いただいた後で、議論していきたい。
市民活動から条例づくりを行なうための仕組みを考えた場合、従来は直接請求や請願などを使って行ってきた。しかしこれは、市長の決裁や議会が採択するかどうかという最初の関門を越えるのがなかなか難しい。そこではむしろ市民提案の条例を住民投票にかけて市民が決定するといった仕組みについても議論されてきた。
また、議会の側からも、市民活動やNPOの政策提案を吸収するための仕組みとして、市民個人や市民グループから提案を受け付けるための政策提案制度を議会に設けることも考えられる。オンブズパーソン制度のような苦情処理機関を、男女共同参画、教育、子育てなどの課題別に設けるといったことも議会からの動きとして考えられるのではないか。
V.議会における市民参加の仕組みと議員立法のためのインフラ整備
討論の広場である議会こそが自治体の政策・条例の企画立案をしていくべきだという議論もあった。そのためのインフラをどのように整備するのか、議会への市民参加の仕組みをどうつくるのかという課題がある。自治体議会そのものに、市民がどのように参加していくのか。栗山町では一般会議、市民参加の会議を設けている。既存の制度である公聴会などをもっと活発に利用する、議会に審議会を設けて公募市民を入れていくといった提案もあった。討論の広場である議会に市民がどのように直接関わっていけるのかという問題もある。
議会事務局の問題も当然ある。議会が企画立案する、条例をつくるという場合には、それをサポートする議会事務局の役割はますます重要になってくる。その議会事務局の独立性をどのように担保するのか。そして具体的な政策条例づくりをサポートする機能も必要になる。議会主導の条例づくりとして、自治基本条例、議会基本条例を議会でつくる事例が出始めている。これに関係した自治体からも参加されているので、是非ご発言いただきたい。
また、議員の間で自主的に政策研究していく活動も広がっている。従来から、県レベルや複数の自治体で、それぞれの議員が自主的に勉強会を行っているケースはあったが、議会を1つの母集団にして、任意の場合も多いのだろうが、自主的な政策の勉強会を積み重ねる、条例づくりのために政策研究会を立ち上げて活動をはじめた事例も増えている。
私からの整理としては、以上の3つの論点をあげた。本日はその中から、市民が主導する条例づくり、議会主導の条例づくりの事例を報告していただきながら議論を進めていきたい。
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