基調講演「人類問題群の中心地域に立った世界市民化運動」
金鎭炫（前科学技術処長官／環境運動連合 共同代表）
Ⅰ．9.11テロとテロのグローバリゼーションをどう見るか
9.11テロ事件は、あまりにも大きな歴史的事件であった。世紀の転換点で、経済成長のグローバリゼーション、IT（情報技術）とニューエコノミー、そして脱冷戦の長期化という楽観的な未来観を一挙に打ち砕き、堕落、恐怖、悪夢、破滅のような映像を提供した。そして21世紀の予徴が吉兆ではなく、凶兆ではないかという心配を抱かせる。もっとも、歯止めなく疾走するIT、バブルの崩壊、狂牛病、炭そ菌の伝播、毎年最高気温を更新する地球温暖化の加速などを一緒に考慮すれば、よりそうした思いが強くなる。
にもかかわらず、今日のテーマを「9.11テロ事態以後の北東アジア」と限定するならば、多少の自慰や安堵、または“幸せ”という感情を覆い隠すことができない。極端な例として、韓国の公営放送で紹介されたインタビューでは「小気味がよい」という声さえ聞かれた。
9.11テロは、世界の自由貿易・金融資本の中心であり象徴でもあるウォール街の世界貿易センター（WTC）を完全に崩壊させ、世界唯一の超軍事大国の力の中心であり、象徴であるペンタゴンの一角を崩すという、あまりにも劇的な映像を見せ付けたために、2099年12月31日に21世紀を回顧しても、“21世紀”初の歴史的事件であり、“近代”と“超近代”の間の最も歴史的な事件として記録されるだろう。
技術的な見地からは、よりそうしたことが言えるだろう｡民間航空機、しかも200人近くの罪のない“市民”を乗せた飛行機が、瞬時にミサイルのような“武器”に変化し、史上最強の軍事力と経済力を誇る国家の心臓部の象徴的な建物を爆破し、1945年の原子爆弾投下に次ぐ短時間（20分余りの間に）に4000名を殺すこととなった。今までの古典的テロや戦争とは違う意味の新しいテロ戦争である｡アメリカのブッシュ大統領が名付けた“21世紀最初の戦争”は、このように非伝統的に始まったといえるだろう｡
その手法において、目的のために手段と方法を選ばない、つまり理由もなく罪もない民間人と民間用輸送機をテロの道具として使い、やはり理由もなく罪もない民間人をテロの目標としたことで、反文明的かつ反ヒューマニズムなテロだということに言を俟たない。また従来のすべての政治的テロは、テロ直後その大義と目的を明確にする潔さがあったが、9.11テロでは局地的テロの範囲を越えて“国際戦争”の性格を有するほどの大きな効果を出しても、テロ組職がその目的や目標を宣言していないという点でも、悪しきテロである事は間違いない。
（筆者は、李奉昌記念事業会会長として9.11直後、李義士の1932年１月８日の日本天皇狙撃事件を再吟味してみた。日本にとっては、大逆罪にあたるテロリストだったであろう。しかし、彼は確かに上海大韓民国臨時政府主席の特命を公式に受けて、独立戦争を遂行した戦士であったし、罪のない市民を怪我させようとする目的と意図は微塵もなく、日本の天皇の命のみを狙った。事件後、その目的を明確にしたことからも、9.11テロと同様の反文明的・反人間的テロとは区別されるべき正常な政治テロであった。）
9.11テロは、究極的に巨大な価値観の差、文明の衝突的な側面を排除することができないという点において、論理的にはいくら反文明的・反人間主義的テロ事件と規定しても、対策、反テロ対策、平和対策を出すことは、そのいずれも容易ではない。
（１）イスラムの教理はテロを認めていないという説法や（２）アラブ圏の中で西洋や近代化に対する立場が一様ではなく、多様（王権国家対軍事独裁国家、宗教国家対世俗国家の区分。アフガニスタンでのタリバン勢力とタリバン崩壊後の西側支援によるアフガン近代化に対する反応など）であることから、文明間の衝突ではないという論説や（３）イスラエル・パレスチナ問題解決が、中東和平の一番重要な前提条件である事は間違いないが、それだけが中東和平とテロを防止できるという主張は皮相的にすぎるだろう｡
また、（１）アルカイダという特定の軍事組職をほぼ無傷で壊滅させることができたが、そうした軍事組織を破壊できても、9.11テロのような世界的悲劇を軍事力だけで予防できるというブッシュ大統領の路線では勝利することはできない（２）特に、まず軍事ありきの対応に、アメリカの大テロ対策が、一国主義的で（３）なおかつ環境（京都議定書、生物多様性条約、合意の廃棄）、軍縮（ミサイル条約破棄）、司法（国際刑事裁判批准拒否）、貿易（３月鉄鋼収入規制反ダンピング関税賦課）など、広範囲な国際協力分野において一国主義的な独占行動をより鮮明にしたことは、力強く批判し、是正してもらうようにしなければならない。
去る３月、メキシコのモントレーで開かれた経済援助関連首脳会議が、後進国援助目標値と期間を明示することなく、勧告に終わったことは、アメリカのみならず先進国全体が、軍事的勝利を得ることができても、まだ平和を得ることができないという教訓を得られなかったということを示す｡
チャーチル(Churchill)的な文明観、すなわち、世界はまだアングロ・サクソンによる文明啓蒙・教化の対象であり、アフリカ、中東、南米、アジアの平和は帝国主義的力によることが最善という立場が、再び台頭し、アメリカの一般市民の圧倒的多数がブッシュの一方的軍事政策を支持していることは、アメリカ的価値と反米、近代化と反近代化、ウォール街的、エンロン的、アクセンチュア（アンダーセン）的グローバリゼーションと絶対貧困人口の難民化、乱民化などの葛藤を激化させ、もう一つの世界的テロを引き起こす可能性を高めている。
最近の政治テロは、単に人種、宗教、国境、資源問題を中心とした一次元的利害関係、局地的利害関係、集団（国家、民族、宗教団体）間の利害関係を越えて、死、生、生活方式の感情と信念体系、価値観に対する根本的な差を表わしている。
こうした価値に対する衝突、信念体系に対する衝突は、UNABOMBER、炭そテロ、核拡散に引き続き、インターネットの世界的拡散とハッキング技術の発展、遺伝子工学の進展と人工生命の脅威、ナノ技術発展による物質操作の容易性など、テロ手段の発展とグローバリゼーションによって9.11よりもっと脅迫的な文明史的テロの可能性を高めている。
価値観の衝突とテロ手段の広範な発展とグローバリゼーションは、帝国主義的な軍事力依存方式や孤立主義的、一国主義的なテロ予防対策や外交政策では成功できないことを明らかにしてくれる。
Ⅱ．黄海・東海地域の“幸運”の平和と緊張
私はアメリカのブッシュ政権の一国主義的、排他的武力優先の政策では、テロ対策やアメリカの世界戦略が成功しないと信じる。また長期的に見れば、アメリカの多元主義、自発主義市民社会構造がこれを許容しないと信じる。
軍事力による抑止ではなく、教育や制度による説得力というソフトパワーを強調するジョセフ・ナイ教授や、9.11テロをきっかけにして、アメリカのアメリカ大陸到着と黒人奴隷搾取まで遡って自省する前大統領が存在して、軍事主義に対する議会の牽制が続き、世界で多様性と包容力が相対的に高い秩序が壊れない限り、そしてウィルソン的インターナショナリズムの伝統が消滅しない限り、アメリカのブッシュ政権のような一国主義の排外的政策は持続しにくいだろう。
特に個人のグローバリゼーションが著しいアメリカでは、テッド・ターナーという個人が、米政府の代わりに、自発的にアメリカの国連分担金を支払い、ジョージ・ソロスは、国家の教育予算総額より多額の寄付をハンガリーの大学教育に対して行い、東ヨーロッパの開放・自由化を援助し、ビル・ゲイツの世界保健医療支援の規模は、国家の政府予算に匹敵する｡
テロ組職だけではなく、麻薬組職、金融機関、超国家的企業、IOC・FIFAなどスポーツ組職、多様な国際的NGO・NPOなど国家の領域と統制外の存在は多い。そしてその影響力は大きくなり、教育を受けて情報化・知識化された個人を誇示する市民が増えるほど必然的である｡より根本的なテロ解決の方法は、米政府の“政策”にだけ寄り掛かるのではなく、グローバライズした“アメリカの個人”たちを“世界市民化”“地球村市民化”することである。
根本的に同じ課題が黄・東海地域に与えられている。9.11テロだけをみれば、黄・東海地域は南アメリカと共に一番平和な地域となった。テロの標的とされたるアメリカはもちろんアラブ、北部アフリカ、ヨーロッパの国々は、皆オサマビン・ラディンとアルカイダにとって直接間接の当事国となった。
特に同じアジア・太平洋地域でも、南側のフィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアは、イスラム要素、アルカイダとの接点が大きくなることで、逮捕、軍事作戦、米軍投入などの緊張が高まっている。これと対照的に、黄・東海地域はイスラム要素は、この地域の西端である中国の新彊省以外はないから（その上に言論の接近が難しい地域で）、東南アジアとはあまりにも対照的な平和を享受している。相対的に、中東、アラブとの政治外交関係が疎遠だっただけに、一般市民はまるでオブザーバーのような感情を維持することができる“幸運”があった。
その上、石油価格までもが暴落して、9.11テロ以後、世界経済はアメリカの不景気、ヨーロッパと日本の停滞、東南アジアの不安、アルゼンチンと南アメリカの通貨危機、アフリカの絶え間ない暴動と絶望で進むべき道を見失い、相対的に安定した中国、シンガポール、韓国に追われることでむしろ経済的な恵みをもらう予想外の現象まで起こる“幸運”を得た。また私たちは一神教であるプロテスタント、カトリック、イスラム、ユダヤ教とは違い、宗教的原理主義の勢力が弱い、仏教や儒教の伝統で、9.11テロの一側面である宗教的葛藤から解放されたと“自慢”できるまでになった。
それでは私たちは9.11テロでも平和だと言えるであろうか。もちろんそうではない。
まずは、朝鮮半島（韓半島）での南北関係と対米関係の停滞ないしは後退で、特に北朝鮮のミサイル、原子力、生物化学兵器など大量虐殺武器（WMD）の除去をめぐるアメリカの対北朝鮮政策と、これに対する一連の北朝鮮の激しい対米非難発言がそれだ。二つめは、アフガニスタン戦争協力と対米関係をめぐった中国と日本の間の葛藤。三つめは、中国、日本、韓国政府の公式政策と関連があったり、またこれと無関係でもあるが広範に拡散している反米感情と、この地域に駐屯する米軍問題の間の潜在的葛藤を持つことができる。
しかし根本的に黄・東海地域の平和を壊す要素は正しく私たち自身にある。一つはこの地域が世界人類問題群の中心地という事実で（力の中心だとか文明の中心という意味ではなく）、二番目はこの地域住民たちの民主市民化、世界市民化の未成熟のためだ。
Ⅲ．21世紀人類問題群の震央地
１．世界の工場、世界公害の中心地
1960年代から85年まで世界の工場は日本だった。85～90年代の世界の工場は日本の資本と機械が合作した４竜(韓国、台湾、香港、シンガポール)と東南アジア(ASEAN)だった。もう20世紀末、21世紀前半までの世界の工場は中国だ。20世紀中盤から21世紀中盤までの１世紀の間、黄・東海地域は世界の工場となり、2020年までに、200年前のアジアの位置を欧米勢力から奪い返すだろう。
しかしまた現在のような大量生産、大量消費、大量流通方式の変更なしに、世界の工場になるということは何を意味するか。それは世界で鉄と石炭と石油と水を一番たくさん使うということだ。世界で製造業商品を一番たくさん生産するためには、世界で最も多く原料と部品を輸入して製品を輸出しなければならない。世界で最も多く物流が流れるためには、陸海空の交通が最も多くなって、人と資本の移動が最も多くなるということだ。
その結果、この地球上で最も多くCO2(二酸化炭素)を排出し、最も多く公害と汚染物質を排出し、最も多くのごみを排出することになる。もうこの地域は世界でエネルギー消費増加速度が一番早い。中国は１人当り所得700$水準、自動車所有1000万台水準でも、CO2排出量が世界２位だ。中国が韓国水準の1人当り石油消費をする場合、現在の中東の石油を中国単独で使っても足りないのみならず、現在、韓国水準(人口の1/4. 3億台)と日本水準(人口の3/4. 10億台)の自動車保有国になった場合、現世界全体のCO2排出量にあたる公害を起こすはずだ。
世界の工場、中国の経済力が平和にどんなに寄与するという側面も考えなければならない。しかし、これに先だち中国経済に代表される21世紀の“近代経済成長のグローバリゼーション”の過程自体が、230年間、漸進成熟して来た欧米近代の経済成長過程とは違う結果、すなわち災いをもたらすこともできる。欧米や日本、アジア4頭竜の近代化の過程と比べて、その人口と速度と範囲があまりにも次元が違う幅と深さに展開されているからだ。今まで200年間、先進化、近代化になった人口より倍近く多い人口が、これまでの経済成長史上見た事がない速度で近代経済成長をしていることが中国だ。(引き継いで2050年人口23億に至るインドとインド洋帝国がまったく同様の21世紀‘近代経済成長のグローバリゼーション’隊列に参加するでしょう。この現象を包括するために筆者は‘Himalaya zone’という表現で意味を付与する)
すでに、世界で最悪の公害地域が中国(本渓)にあり、世界10大公害都市の半分以上が中国にあり、世界で２番目に汚染した場所が黄海である。黄砂のテロは韓国、日本のみならず太平洋を超えているし、中国の水不足は重要な地球村の環境破壊要因になるでしょう。
２．都市化・高齢化・小子化・娯楽化・社会解体
日本と韓国の都会化は、もう90%水準に至ったし、中国政府の努力にもかかわらず次世紀前半に中国も80～90%の都市化、それも大都市化(Mega City)になるでしょう。韓国と中国の都市化はその速度と動機によって不可欠で二極化(両極化)、スラム化、環境悪化の要因になっている。都市の物流、交通、住居問題の技術的革新またはシステム的革新が創造される前には‘都市爆発’‘都市戦争’の可能性を排除することができない。
中国も韓国も2010年代末から2020年代の間に高齢化・小子化になって、西欧福祉社会に比べる時、社会福祉の安全網が構築される以前に、また社会福祉財政が蓄積されるよりも前に、短期間で進行している人口構造変化（労動力減少、扶養人口急増）は、社会の解体現象を促進するだろう。
一番儒教的な伝統を誇る韓国が、いつのまにか離婚率世界３位の国家となり、離婚増加速度でトップを独走し、師匠と大人を一番尊敬しないで集団利己主義の暴力が地域、職業、教育、年齢を問わず、手広く日常化されて、縁故主義による政治で解放されることができないことは、社会解体過程の一断面である。その原因は（１）激しい近代経済成長(経済第一主義・拝金主義)、（２）伝統の再構成と合理的進化の失敗、（３）民主市民社会の未成熟、（４）ウォール街グローバリゼーション(短期利益・金融差益重視経営)、（５）消費(浪費)と娯楽化のグローバリゼーションの合作であろう｡
中国が韓国で進行する社会解体パターンを繰り返さないで逸脱するだろうか。中国が韓国よりもっと巨大な地域と人口の規模で、韓国よりもっと早く無節制な近代経済成長と、もっと急激な人口構造変化が進行していることは、つまり共産堂一党独裁でも仕方なく(またはそれほど維持することができなくて)社会解体は韓国の速度より加速されるでしょう。
３．中国の人間複製・GMO
中国はもう人間のクローン実験を、２年前に南京で実施されたことが明らかになった。外信は中国がもうずいぶん前からGMO(遺伝子組み替え食品)開発に力を注いでいるということを伝えている。絶対的な水不足、土地不足に、すでに世界最大の食糧輸入国家として、絶対的貧困脱出の絶体的な政治的命題、農業投資の限界など、多くの要素を考慮する時、中国政府は遺伝子工学を利用した食糧及び食品開発努力を、どの国よりも強力に集中することを予想できる。
その結果どうなるか。中国だけではなく、世界人類の省資源型食糧解決の福音になるのか。また治療することができない“遺伝子テロ”の災いをもたらすのか。
４．市民社会の未成熟と斥外傾向
短期的に憂慮される、黄・東海地域の一番大きな問題は、この地域国家のショビニズム・内向化・排外・民族主義感情が激化する可能性だ。基本的に近代国家形成過程の成熟期を通らなかった韓国、中国、日本、北朝鮮は、皆、本質的に民族主義、帝国主義、愛国主義、ヘゲモニズムの誘惑を振り切ることができない国々だ。そのリーダーたちや国民の心性がそうだった。中国の根深い中華主義と隣接国家に対する傲慢、日本の大東亜共栄圏と海洋国家‘日本例外論’、韓国の5大強国論とアジア中心世界中心国家主張、北朝鮮の唯一主体思想と先軍政治・強盛大国戦略は皆その下積みに強烈な排他的民族優越帝国主義の感情が敷かれている。
日本は世界第２位の経済大国であり、非西欧地域で一番成功したという日本のデモクラシーは、“失われた90年代”と脱冷戦以後、政治と官僚リーダーシップ不信を受けてむしろ右傾化と武力化を助長するようだ。
中国指導部が10年内に迫る国民の政治的自由と社会の多元性・個性化要求を内部的に昇華、収容することができない場合、WTO加入後遺症と共産党一党長期支配の難問が、外への民族主義、中華主義、覇権主義で現われることになるかは、この地域平和の分かれ道だ。乱民、 難民、農民暴動の歴史的伝統と社会解体、環境悪化が重なって、反米、反日、反外勢、反グローバリゼーションを操る可能性が非常に大きい。特にWTO加入後、農業の打撃と農民失業の増大と今秋の党大会で選出される第４世代指導部の内向的成長背景と民族主義傾向が重なって非常に注目して心配する事だ。
南北朝鮮とも反米感情が急速に高まっているし、南北朝鮮の指導者全てが国民からの根深い信頼性の危機という問題を抱いている。北朝鮮の歴史上、類例ない鎖国独裁政策と経済失敗そして韓国の政治混乱と社会解体現象の加速化は、つまり南北韓リーダーたちにとって自分の問題を自ら中で解決しようとする正常順理的方法ではなく祖国統一という名分で外の突破口、ポピュリズム的対外攻勢で捜そうと思う可能性、そんな誘惑を振り切る非常に難しいだろう。
こんな民族主義的・帝国主義的・ショウビニズム的、排他的な誘惑の防止は第一そして原理的に市民社会の成熟、多元的価値の自由民主市民社会の登場と成熟で阻まれるのだ。日本と韓国の市民社会の力量は、果してこれを沮止することができようか。もちろんこれにはアメリカ・ヨーロッパ・中国・日本など強大国のリーダーたちが開放・多元・軟性志向で地球社会的次元の適応・変質の努力が従わなければならない。
そうではなければ二番目では力による外圧、他律によって抑制されるのだ。冷戦時のアメリカとソ連の抑止力、朝鮮半島における米軍による勢力均衡、脱冷戦後、黄海・東海地域の唯一の均衡者(Balance)として残ったアメリカの存在や歴史的にアジアで近代以前の中華主義秩序みたいなことがその他律の一断面だ。最後の他律は三番目で環境汚染による大量の人命被害や生活空間の喪失という災いや戦争のような破局を踏まえてこそ、黄海・東海地域の国家的・市民的平和連帯を強制することができるはずだ。
Ⅳ．韓日市民社会の役目
9.11テロの世界戦的性格と反文明性の浮上、そして被害相手が超大国という点で米政府は先日の排他的・一国主義的な武力に頼る立場を変えて世界主義、軟性化、国際協力志向、世界市民協助の道へ切り替えてテロ組職やアメリカや、アラブや非アラブや、先進国や後進国や皆覚醒のきっかけになるように期待した。
しかし反対の道に行っている。イスラエルの無力とパレスチナの自爆テロの悲劇はさらに悪化し、インドとパキスタンの間の宗教戦争はさらに激烈さを加え、イラクの戦雲はもっと厚くなっている。
9.11テロは、アラブまたはイスラム要素の比重が高いため、文明的でも政治外交的にも、これらの要素と疎遠であったことから“幸運の平和”を享受している黄・東海地域も、よく考えてみれば、自発的、自律的な平和構造をもっているわけではない。
国家間協力体制もようやく経済に局限して“共同体論議”が、ちょうど始まろうとしている段階にあるだけに、政治、安保まで踏み込むと、初歩的な論議をする場さえない。まして近代史や歴史整理は言うまでもない。市民社会の平和意識も極めて不始末だ。
それにもかかわらず現在進行されている黄・東海地域の近代化、近代経済成長と社会構造変化、人口構造変化、住民の欲望構造の変化は、新しい世界秩序やシステムを創造しようとする自律的努力なしには、環境・難民・貧困・人口・社会解体など世界人類問題群、地球村の災いの震央地になる｡
権力と市場の力を認めるが、この規律と均衡者として市民社会の役目を強調して社会共同体の共同善を信じて、自由、個性、自律、自発の民主市民が主体になる社会の‘善’と平和を信じる‘市民社会’。黄・東海市民社会参加者たちとしてはすごく心が心忙しいしかない。
実は、黄・東海地域の政治権力者たちや企業人たちに、この地域の平和構造や地域協力共同体構成の洞察力とリーダーシップがあれば、黄・東海地域は世界のシステムをリードする位置にある。
韓・日・中に香港、シンガポールを合わせた外貨保有高は世界外貨保有高の60%を占める。これらのエネルギー収入(石油,石炭,ガス)と輸送を共同協力、または統合すれば世界エネルギー市場秩序を決めることができる。この地域の食糧輸入を共同で購入、輸送すれば食糧輸出国の影響力に対抗することができる。これらの人口を合わせれば、世界人口の４人に１人は黄・東海人である。世界に一番多い海外僑胞と遊学生をまき散らしたのも黄・東海人である。こんなに黄・東海が協力・共同体化すれば、世界の経済と平和秩序形成に決定的役目を果たすし、それに寄与する義務がある。
しかしこの地域は人口や経済や規模が大きいだけに、人類問題群（つまり自己問題群だ）世界秩序、平和秩序創造に対する自発的自律的責任意識さえない｡
どうしてそうであろうか。能力がないという答もあるはずだ。既存の世界秩序に対して一人で挑戦して、その犠牲者になりたくないという利害関係もあるはずだ。かつて、帝国主義の世界秩序で被害だけ受けたという被害意識もあるはずだ。
しかし何より重要なことは、黄・東海問題群が、そして黄・東海人の生の内容と条件が、むしろアメリカ・アメリカ人よりヨーロッパ・ヨーロピアンよりもっと相互依存的でもっと資源輸入依存的で、もっと人口分布で地球村的で、もっと反自然的(環境破壊的)でもっと社会解体的(社会不信、政治冷笑)という事実だ。欧米先進国は、もっと多い豊饒と贅沢もっと確かで余裕ある安保のために外と取引するが黄・東海地域は最小限の必要と福祉そして絶対的な生命の安全のために対外取引を拡大しなければならない。
そして私たちはもっと世界的・開放的ではなければならないし、もっと民主市民的共同体ではなければならないし、もっと質・軟・格・善(筆者はこの道を‘善’進化と呼んで量・硬・規模・強の道を先進化で区分する)の道ではなければならないし、もっと環境調和的ではなければならないし、経済決定論的から多少は脱却すべきだし、もっと平和的ではなければならないという冷酷な事実と“真実”を直視していないからだ｡
もっとも、地球村、地球社会的条件の人生を送りながら、地球村、地球社会、世界秩序とシステムを自律的、主体的に近づかない(利用や詐欺の対象、それとも拒否,回避,抵抗の対象であるだけ)自己欺瞞、虚偽意識が支配しているからだ。自己省察・自己整理・自我実現の自由市民意識、責任主体意識がないからだ。
１．まず一番、緊急な課題は、日韓市民社会の成熟と、日韓の市民社会運動の中心が基礎になって、黄・東海地域の市民社会化を促進する事だ。Big Brother下のロボット住民、一党独裁下の党員、君主下の臣下、権力者や百姓もすべて利己的な自由のみを追い求める動物的な個人を乗り越えて、自由自律の市民が主体となる市民社会共同体を作って行かなければならない。
中国と北朝鮮の政治・経済・社会に、どんな経路と過程で変化を経れば、市民を登場させて共同善を追い求める民主市民社会共同体になるのであろうか。このために日韓の市民社会はどのような貢献ができるのだろうか。
その答を正しく力強く出すためにも、日韓市民社会の力量が大きくならなければならないだろう。市民社会の普遍的な信頼を通じて、黄・東海国家間の信頼を構築することができる。市民社会の成熟だけが、この地域の経済共同体・安保協力体制の基礎となる。
２．その答えのためには、日韓市民社会が未来指向と過去の整理能力を育てなければならないであろう。
未来指向の能力は日韓の国境を超えて、黄・東海地域の共同の問題である。この地域を圧倒的に支配する問題群に対して、共同で知性的・情報的・教育的下部構造を形成するのだ。
貧困・環境・エネルギー・水・難民・人権・都市化・人口構造変化などがそれにあたる。最小限、市民社会中心にこれら共同問題群(Common Problematiques)に対する定期的聞き取り、記録、評価システム(monitoring system)から始めなければならないだろう。
３．日韓市民社会は、それぞれの各界リーダーたちに、黄・東海地域に住む韓国、北朝鮮、日本、中国の15億人という生命の生の問題群が、正しく21世紀地球村人類問題群(貧困,環境、資源、格差、戦争、テロ、難民、ガバナンス)の核心で地球共同体・人類世界市民化・グローバリゼーションの主体にならなければならない必要性が一番高いのが、正しく私たちであるという事実を認識し、説得しなければならない道徳的責務がある。
そして究極的に、この地域の経済・金融・産業・貿易・交通・技術・エネルギー・資源・教育政策の志向とシステムが、一番地球共同体的・世界市民的なものに転換、創造するように先行しなければならないし、21世紀の人類平和創造の中心とならなければならない。
まず代替農業・代替エネルギー・代替交通・環境及び消費節約技術・人口構造変化を追い越す社会福祉システムから、各国の立場ではなく、黄・東海人、黄・東海市民の立場で近付く努力を、日韓市民社会の先に立つ必要がある。具体的例の一つは、この地域交通システムを自動車中心から、鉄道、運河を利用した大衆公共システムに変える事だ。特に中国がそうする。
４．その中で、至急ながらもまた長期的根本的な課題は貧困からの解放である。貧困はテロと騒擾と難民と環境問題の中心にいる.これは市民社会力量だけでは解決の限界がある。
鄧小平が、1980年代香港を訪問して言った言葉はちょっと脅迫めいた冷笑が敷かれているが、本当の深みがあることも事実だ。すなわち、もし先進国が中国の経済成長を助けずに失敗すれば、2億の中国ボートピープルが太平洋沿岸をさすらうはずだという発言だ。
中国の難民・ボートピープル・不法移民者(朝鮮族を含んで)と外国人労動者問題はもう韓国、日本の社会・政治・外交問題に登場しており、石原慎太郎東京知事のような極右復活の名分になっている。また黄・東海地域のみならず、オーストラリア、アメリカを越してイギリス、オランダにまで悲劇的な事件が起こっている。
人道主義原則に依拠し、黄・東海住民の飢餓に対する支援と貧困から解放のための制度と構造の改善を関連政府機関と住民、そして国際機関（世界器具）と市民たちに促す義務がある。
20世紀の世界平和と市民運動の先駆けが19世紀アンリ・デュナンの赤十字運動すなわち敵国の兵士でも怪我をした人は治療するという原理にあったら21世紀の平和市民運動は、敵国の住民と言っても飢えた人には救恤して人間のもてなしが受ける事が出来なかった人は人らしく暮すことができるように支援しなければならない。
この点で私たちは北韓住民の飢餓と苦しい非人間的生に対しては市民社会の人道主義原則で積極支援しなければならない。
こんな支援は議論するまでもなく独裁・抑圧・暴力・反文明的な統治者たちに対する支援になってはいけないし、長期戦略(短期ではなく)ではこれら反文明・反人間的体制解体に順応的・促進的でなければならない。
飢えて抑圧を受けている住民に対する人道主義支援原則と飢餓を作って住民を抑圧する反生命・反人間的独裁体制に対する解体促進という原則を厳格に守らなければならないだろう｡
北朝鮮からの亡命者や、各国独裁・独占勢力の基本権・人権抑圧に対して特にそうする。
５．日韓市民社会が特に関心を持って“闘争的”に対処しなければならない課題は、この地域の内向化・ショウビニズム・斥外・民族主義化傾向だ。
政治的に見れば、日本のポピュリズム的(天皇主義的) 右傾化、韓国の統一問題を巡ったロマンチック左傾化、中国の21世紀は世界中心であるという自負心と、米日ヘゲモニズムに対抗する軍事力志向と第4世代指導部の民族主義傾向などがそれだ。
経済的にはグローバリゼーションに対する反発と順応が同時に内向化・反外勢を促進するでしょう。日本と韓国の産業空洞化(特に製造業と農業)に対する不安と動揺、中国のWTO農業開放による農民失業と国有企業と金融産業の構造調整による失業の増加脅威に対する反発だ。また市場の力による日韓・韓中・日中の間のFTA(自由貿易協定)論議の陽性化と経済統合の進展はいわゆる黄・東海地域の“脱欧米入亜”の内向化を促進させるはずだ。
このような内向化・ポピュリズム・ショウビニズム・民族主義・斥外傾向は自由・民主・自律・開放・多元・多様と地球的次元の平和を志向する市民社会の価値と指向に根本的に反するのだ。
日韓市民社会はこのような逆流を阻むために、過去の整理に徹底的ではなければならない。日韓間の歴史教科書問題だけではなく日韓・韓中・日中の間には特に近現代史の認識と記述で大きい偏差を見せる。近現代史のみならず、３カ国は皆歴史認識で歪曲・隠蔽・独り善がり・傲慢が多い。日韓市民社会は、両方とも省察と懺悔を通じて、過去に対する責任糾明や補償ではなく、過去から教訓・教育を通じる未来開拓の次元で昇華・乗り越える徹底的な努力を傾けなければならない。
こんな日韓市民社会の努力が、韓日と中国、北朝鮮政府の一国主義を乗り越えるように作らなければならない。21世紀の斥外傾向を防止するために未来指向で歴史を整理する民間共同努力の場・機構を日韓市民社会が主導しよう。
６．黄・東海地域の内向化・斥外・民族主義強化は、域内各国間の利害関係では内部的に葛藤的なことや一つ合する焦点があったら、反米であるのだ。韓国・北朝鮮・日本・中国の接点が儒教や漢字と言うことは、過去の物・外形的なことで、21世紀で政治的に動員可能な確かな心情的接点は反米になるでしょう。
したがって市民社会・世界市民・地球村社会の立場では、米国の一方主義・ヘゲモニズム・独占・傲慢・孤立主義は反対しなければならないし、そういう傾向の権力に対しては批判しなければならない。また米国が維持する民主・開放・多様・個性・多民族・自発の価値まで不正にしてはだめで、アメリカ的多元性・開放性が、アメリカの中の一国主義と傲慢を抑制するようにしなければならない。
ある力も反人間・反文明・反福祉・反生命裏面反対・不正・抵抗しなければならないし、どんな対象も民主市民社会で転換・回復することができれば育てなければならないことが自由民主市民社会の道だ。私たちたちにもアメリカや北朝鮮に対して、皆同様の接近の純純性を守らなければならないのだ。感情的・センチメンタル・画一的反米や権力者・扇動家による工作的反米は市民社会の原理にそぐわない。
よりもっと至急で根本的アプローチは、アメリカが導いた世界秩序や体制だか、反米的立場で試みる世界秩序や体制だか、これらを皆包容しながら黄・東海問題群(すなわち世界人類問題)を正面から充実に解決しようとする努力だ。
黄・東海問題群、すなわち21世紀地球村問題群を解決するために、私たちが新たに構想・改善・改革・転換・創造しなければならない世界エネルギーと資源の生産・取引・輸送・消費・貯金システムはどのようなものでなければならないのか。黄・東海15億と世界60億～100億の生命を、安全で平和に維持することができるようにする食糧と食品の生産・流通・輸送・保存・消費システムはあるのではなければならないか。
人口構造と労動力移動システムと空間構造(都会化)はあるのではなければならないか。IMF・世界銀行によって韓国が直面した改革努力も、そのまま継続していくが、より根本的な代案は何なのか。黄・東海版マーシャルプランがなければならないか。黄・東海15億市民の貯金・金融取引・福祉のために一番相応しい通話外為システムは何なのか。人々の生命と次世代安全のための環境システムと技術接近（エネルギーと水の供給と節約・汚染除去、バイオテクノロジーの倫理)はあるのではなければならないか。21世紀の地球村社会の平和のために、娯楽化・商業化で疾走する教育・文化・芸術はどんな改革をしなければならないか。
Ⅴ．結語―“うちの皆は弘益人間・大和・和而不同の地球人である”
韓国と日本での生は、韓国と日本の中での条件に完結されない。黄海・東海の生の条件で拘束されたし、これからもっと強く拘束されるでしょう。15億の黄・東海問題群が正しく、21世紀100億人類の問題群。人類の生命・生・資源・空間問題の核心だからだ。
21世紀はアジアの時代・中国の時代だと言う。中国が2020年米国のGNPより大きい“大国”になるという帝国主義的力の中心という意味ではない。21世紀の人類生存問題群の発生・展開の中心がこの地域という意味で、21世紀はアジアの時代だ。
230年前、西洋で始まった近代経済成長、近代化が21世紀中盤、黄・東海地域とHimalaya zoneに至って文明史的変質と脱皮を要求している。現在の延長線上の近代化過程は断じてこの地域生命に幸福を提供することができない。
この変質・脱皮が災いで爆発しないように、市民社会の価値と指向で予防することが韓日市民社会の基本的役目だ。もう一歩進んで、黄・東海平和システム・人類共同体・近代個人の人類市民化を志向する地球社会システムを探索・創造してこれを主導しなければならないことが日韓市民社会の重要な役目である。
9.11テロ翌日、2001年9月12日付パリ・ル・モンド新聞1面トップ社説の題目は“We are all American(私たちは皆アメリカ人だ)”であった。9.11テロの残忍性に対する大西洋人たちの共感であった。もしル・モンド社説の共感が、チャーチルが生涯、夢見た英米統合といった大西洋的表現であれば、テロは根絶されないだろう。世界の平和や世界市民的秩序創造には大きく及ぶことができないからだ。２歩、３歩と、もっと進まなければならない。
フランスのル・モンドが“私たちは皆ベトナム人だ”と言えなければならない。アメリカ人が、“私たちは皆、苦しむニューヨーカーともっと惨めなアフガニスタン人だ”と言えなければならない。韓国、日本、中国人たちが“私たちは皆、黄・東海人である”と言えなければならない。
先進国の分限者が“私たちは皆、貧しい後進国の人びとの友達だ”と言えなければならないし、貧しい後進国の人びとも“私たちは皆、地球生命を守る地球人だ”と言えなければならない。またその言葉を実践しなければならない。
黄・東海には、弘益人間(韓国)・大和(日本)・和而不同(中国)という宗教的戒律ではない日常の市民的指向がある。黄・東海人化と21世紀の地球市民化作業は、もしかしたら弘益人間・大和・和而不同の現代的な再創造の仕事かもしれない。日韓市民社会は、黄・東海の生命の安全と共同体の平和追求が、ひたすらに21世紀の人類問題群を、正しく私たちの日常の生の中の問題として包容することで、すなわち黄・東海人化・世界市民化を目標にすることでより成熟するであろう。重ねて強調するが、この地域の私たち生の条件がこの世界どの地域より世界的・地球村的だからだ。日韓市民社会は、“私たちの皆は弘益人間・大和・和而不同義地球人である”と言えるように、システムと秩序を創造する苦痛を回避することができない。
それが夢だとすれば、その夢が覚めた時は、また一つの広島や長崎の災いが起こった後である。地球村社会実現の夢を持った日韓市民社会の力量を育てるためにも、共に献身しよう。