市民と議員の条例づくり交流会議

第1分科会「議会への市民参画」

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基本構想、自治基本条例と「議会への区民参加」
村越まり子(文京区議会議員)
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 この分科会のテーマは「議会への市民参加」、文京区は基本構想や自治基本条例を策定し、「議会への区民参画」は文言としてはあるが、実態としては進んでいるとは言えず、議会以外への区民参加も含めた報告となることを事前におことわりしておく。

(1)文京区基本構想「文の京の明日を創る」

 区長が平成11年4月に当選した後、基本構想見直しのための審議会を立ち上げた。審議会座長は大森彌先生。それまでの20数年間の職員出身の区長との違いをアピールすることを目的に、区長が「区民参加」を主張、基本構想策定過程にも、団体推薦以上に公募の区民枠を広げ(9人)、ワーキンググループをつくり丁寧につくった、とされている。

 しかし、自分もスタート時に議員枠で参加したが、ワーキングの積み重ねも参加者は意見を言うだけ、結局、原案は行政側がまとめていく、という実態に、「区民参画での基本構想作り」の評価そのものに疑問を感じている。

 比較的短期間(10年間)の基本構想だったせいもあり、「徹底した行財政改革の実行」が前文に盛り込まれたが、基本構想に“行財政改革”の考え方を入れること自体に意見があり、所属会派として審議会座長と大論争をした経緯もある。ともかく策定された基本構想には理念や政策として「区民参画」も掲げられたが、基本構想だけでは不充分ということになり、「おわりに」の中で「今後、区民憲章やまちづくり条例といった自治基本条例をつくることが必要」という文言が入った。

(2)「文の京」自治基本条例

 基本構想審議会答申の「おわりに」を受け、区民参画の具体的仕組み及び手続き、苦情解決の仕組み、区民・区議会・執行機関の権限、ということに直接関わる仕組みなどを検討することを目的に、自治基本条例の制定に向け、研究会が設置された。ただし、この自治基本条例の場合は、学者が中心となった研究会を重ね(座長は東大の森田先生と斉藤先生)、かなり素案がまとまった段階で公募区民も入った審議会が設置され、公募区民も5名と少なく、参加した区民からは「区民参加の仕組み」に対する改善が求められたが、その要望は取り入れられなかった。

 議会に関する部分―区議会と区民との関係、区議会の役割―については、意見照会があり、一応、議会で検討した。研究会の段階では「ガバナンス条例」という言葉が使用され、「協働」の表現を用いた点は文京区としては画期的といわれたが、区民と事業者と大学が同列になったことで、実態としては、区と大学の協働が先行し、一方の「区民との協働」については、区民を“ボランティア”としか捉えていない区の見識に、課題が残る。

(3)区政・区議会への区民参加

 区議会への区民参加については、自治基本条例の策定に、初めて「参考人制度」を活用、会派から1名ずつ参考人を選出した。他会派の状況として、他からの質問に対応できないような参考人を推薦していることが原因で、推薦した会派からの質問しか受けない、という妙なルールができた。議会への区民参加の第一歩としては評価されるとは思うが、形式的・儀礼的な参考人制度になってしまったのは残念。

 昨年4月に自治基本条例が制定された。しかし、その後の議会への区民参加は、議会に区民が来て意見交換を行っただけで、内容も、従来からあった、各会派の幹事長と商店街連合会会員との話し合いを、会派幹事長→議会と変えただけ、形だけの議会への区民参加にとどまっている。例えば行財政改革にからむ保育園の民営化、今年示された小学校の統廃合の将来ビジョンなど、現在の文京区において最も区民の関心の高いテーマについて議会が区民と意見交換をするのであれば、実のあるものになると思うが、たまたま実施していた既存のものを、一部修正しただけでは、議会への区民参加が進んだとはいえない。その後、商店街連合会からの要望について、議会が聞いたのに何も実行されないというクレームも届き、「議会との意見交換」そのものも、一体何だったのかという思いすらある。

 どんな区民と意見交換をするのか検討するのは議会運営委員会。区民から、テーマ設定への意見、参加したい旨の意見を受けたり、自治基本条例策定時の参考人招致、保育園の民営化問題には保護者などに委員会等の場に参考人という形で入ってもらい、区民が発言できるような仕組みが望ましいが、制度としては全くできていない。

 自治基本条例はできたが、「協働・協治」の理念をどのように実現するのか、市民が政策の企画、立案・評価までできる仕組みが無い。会派としては、自治基本条例に対して反対の立場をとったが、その際には、むしろその仕組みづくりのほうをきちんと条例化し、パブリックコメントについても条例で規定し、区民参加の実態が着実にできてから、自治基本条例について着手すべきとし、理念だけつくることに異議を唱えた。予想通り、4月から自治基本条例ができ、「協働・協治」が謳われながら、その後の様々な問題への対応はトップダウンで進められ、区民の声が全く反映されていない。市民参加条例やパブリックコメント条例の制定を一般質問等で提案しても、個々に対応しているので必要ない、という答弁、このままの実態では、議会への区民参加はもちろん、区政への区民参加もおぼつかないのでは、と心配している。

 保育園の問題、小学校統廃合の問題では、議員が、区民説明会での区民の声を聞くことさえしておらず、議会と区民との関係は、どんどん乖離しており、議員が区民の代表たり得ていないのが実態。区民が様々な問題に直接署名を集めて提案しても、議会も区長も反映しようとしない、結果的に、パブリックコメントをとっても、「できない」ことが返答されるだけになり、自分たちの意見反映と説明責任の仕組みが無いことに市民は苛立っている。区の姿勢、施策を変えるには、首長を変えるしかないという意見も出ている。

 このように、文京区では、議会への区民参画以前に、区政への区民参画が進んでいない。これまでは三鷹市の事例を先進的と思っていた。実態を聞くと、条例があればよい、というものではないことが分かったが、それでも仕組みとしての、市民参加条例、パブリックコメント条例の制定を今後も提案していきたいと思う。

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須田: 文京区の自治基本条例には、第23条「区民参加と活性化」で「区議会は、区民との直接対話の場を設けるなど、区議会への区民参加を推進し、区議会の活性化を図り、開かれた区議会を目指す。」とあるが、具体的には何をしているのか。また、その決定のプロセスは。

村越: 区の商店街連合会の会員と、区議会との意見交換がただ一回限り。議長は6月まで23区の議長会会長だったので、議会への区民参加の実績づくりのための企画であった。
 議会運営委員会が「議会の活性化」をテーマに審議している中で、区民との意見交換会が決まった。相手方の区民を決めるのは、与党との力関係で決まってしまう。

会場参加者: 言葉の整理が必要。「議会への市民参画」の定義が不明確。市民が代理人を議会に送り、市民がつくる議会なのだから、「議会活動への市民の直接参画」という意味なのか。“参加する市民”の幅の問題もあり、文京区や三鷹市の条例では、市民参加の“市民”が相当広く定義付けられている。その中には、外国籍の市民も入っているし、未成年者も入っている。現行法では、選挙権は20歳からだが、4年に一度という選挙の構造上、実際には初めて選挙権を行使するのは平均22歳、以前17〜22歳のユース議会を東京都に提案、川崎市では子どもの権利条例の関係でそうしたものができている。外国人市民代表者会議は東京都や川崎市でできた。昼間人口が多いところでは、昼間区民会議もあってもいい。市民参画には、外国人、子ども、昼間市民など、有権者になれない市民が参画する道が開かれることが大切。明治初期から100年できなかったことに、今やっと風穴をこじ開けようとしているのだから、もっと長い目で幅広く見ることも必要ではないか。分科会のタイトル「議会への市民参加」に対する解説があるといいのだが。

須田: それについては、今後の議論の中で、明確にしていく。
 区民とは何かの規定は条例にもあり、文京区でも、市民を構成する定義に昼間市民等も規定されていると思うが。

村越: 文京区は、企業、特に区内に多く存在する「大学」がある。人口は18万人、昼間人口は30数万人、自治基本条例では、区民も事業者も大学も同等であるが、「事業者との協働・協治」も区民との「協働・協治」も同じレベルという区長の捉え方に対しては、疑問を感じている。

須田: 議会とは何なのか、「議会への市民参加」は正当性を持つのか、「参加」以外に適切な言葉かあるのか、等については、この後の「自治体議会の挑戦、議会改革レポート」を聞いてから改めて議論していきたい。先に文京区の報告への質問を受ける。

会場参加者: 区政への市民参画と議会への市民参画をどのように区別して考えているのか。三鷹の報告でもあったが、行政計画をどう考えるかは別として、行政への市民参画が良い案を作り、最終決定を議会に委ねる、という形で整理できるのであれば、議会への市民参画は、良い案を作ることではなく、良い決定をするためのもの、ということで性格が異なってくるのではないか。(江橋先生の発言のように)議会への市民参画はまだ手法が無い。今ある公聴会の手法開発もこれからの問題、もう少し広く、こういうことができないかとか、また、議会としては参画する市民に何を求めるのか、など、論点として出してもらえるとありがたい。

会場参加者: 議会への市民参画とは、議会のしている仕事への市民参画なのか、議会という会議体への市民参加の問題なのか。例えば、基本条例をつくって住民投票をし、住民投票でイエスが出た場合に条例として完成させる、ということを、住民投票条例を議会がつくって、それに基づいて住民投票に市民が参加する。(例えば、○○条例に関して住民投票を行い、市民の過半数の賛意が出た場合に議会が○○条例として完成させる。)これは、条例づくりという議会の機能への市民参画ではあっても、議会という会議体への市民参画ではない。昨日の栗山町の「一般議会」は、議会が開いている会議体に市民が参加することだが、議会モニター制度などは、議会の持つ立法機能や基本計画策定に関わる機能、予算策定に関わる機能に市民が参加することで、これまでの首長サイドで行ってきた計画策定等の過程への市民参加とは異なる。議会サイドが行う作業、機能への市民参加、なのか、議会そのものに参加するのか、整理が必要ではないか。

村越: 現在、議会運営委員会でテーマになっているのは、議会の活性化や機会の立法機能。まだ議員自体が討論する議会にはなっておらず、行政側からの提案をチェックするだけで、議員同士の議論・討論については、研究レベルで特別委員会では試みている程度。その議会を改革していこうという話し合いの中から、参考人として関係者の話を直接聞く、というレベルの「区民との意見交換会」が1回行われただけで、議会改革にはなっていない。

会場参加者: 議会活性化条例を提案したが、改革に後ろ向きな意見が多く、実現していない。この会には「条例づくり」の良い事例を期待して参加。ニセコ町は、まちづくり基本条例制定当初は入っていなかった議会条項を、昨年12月に条例改正を行って加えた経緯がある。全体的なまちづくり条例に議会の役割・責務などの規定を盛り込んだほうがよいのか、議会が主導的に進めるのであれば、栗山町や四日市市のように議会基本条例の制定がよいのではないかと思うが。

須田: 全体討議のメインのテーマになると思う。自治基本条例を最初に制定したニセコ町(まちづくり基本条例)が議会条項を入れなかったので、入れない傾向が続いた。その後議会条項を入れるようになってきたが、立場の尊重にとどまり、実効性のない中途半端な規定にとどまっている。それを完全に見直したのが、栗山町の議会基本条例だが、栗山町のような取り組みはどこでもできるわけではない。イニシアティヴを変えるために、その自治体状況で、何が有効か議論する必要がある。その議論に戻るために、議会改革の事例調査報告や四日市の紹介を受け、議会の本質的なあり方、議会の機能をどう開いていけばいいのか含め、午後の討論にしたいと思う。行政は国に守られた存在、上に対して責任を負う形になっていて閉鎖的。だからそれに対して市民参加が必要だった。議員は一応有権者とつながっているが、つながり方の問題がある以上、「参加」の問題を考える必要がある、という視点で午後の議論につなげたい。

※会場参加者の発言などの文責:市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会(事務局)

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