市民と議員の条例づくり交流会議
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◆全体会:第ニ部「変える、変わる、変えられる―自治法改正の評価と今後の議会改革」
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提起「市民立法で議会を変えるために」
◆若林智子(横浜市議会議員/神奈川ネットワーク運動共同代表)
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神奈川ネットワーク運動は1984年に誕生した地域政党です。分権の時代に、国の政党が地方の隅々までをコントロールする政治ではなく、地域の政党が政策を競い合い、住みよいまちをつくっていくような政治を実践しようという考えのもと、生活の課題は政治に直結している、だから政治に参加しようと呼びかけてきました。
全国一律の中央統治型政治では、複雑で多様化した社会の問題を解決するのはもはや困難だということは、どなたも否定されないと思います。私たちナショナルパーティーが政党システムを分権化することが第一ステップであろうと考えていますが、政党の分権は一向に進みません。とくに、国の政治の影響を受けざるを得ない神奈川の政治状況を考えたとき、国の政治に連なる政治ではなく、地方政治に意欲ある市民をエンパワーメントすることのほうが、政治を活性化すると考えています。
先ほどから議員年金の問題が出ていますが、今年6月の臨時国会で、地方議員の議員年金改正が行われました。国会議員年金は形の上で廃止されてはいますが、今年は28億円の予算が担保されていますし、地方議員にはまったくメスが入らないどころか、市町村合併で制度が持続できなくなる中、公費負担率をさらに上げようとの要求がなされている。そうした制度を決めるのが国だというのもおかしな話しです。改正は4年に1度、統一地方選の前年に行われます。議員年金を廃止し、年金に一本化すべきだとの署名を提出するにあたって、国会議員にロビー活動したところ、趣旨には賛同できるが、地方選の前年にこんなものを持ってこられても困ると各政党から言われ、紹介議員となってくれたのは無所属議員たった一人だけでした。地方議員が国会議員の集票マシーンであるという構図がよく見えた瞬間でした。
今日用意した資料はかなり古くて、10年前の97年に出された議会改革案と、翌98年に市民政調の議会改革プロジェクトでまとめられた提案です。このように、さまざまな提言・提案はしたものの、それがどうかと問われれば紙にまとめたのみでした。むしろネットにとって大きな転機となったのは、98年に二宮町、99年には厚木市で議員を複数化する中、議員提案権を獲得したことでした。議会の立法府としての機能はほとんど忘れ去られ、いま、議員は首長提案へ一方的な質問と要求を述べるのみです。国の官僚が作成したモデル条例が首長を通して議会に提案される中、自治体議会を本来の立法府として機能させるために、そして条例提案を通して議員同士が議論する場へと変えるために、議員・市民による立法運動の取り組みがスタートしました。自治体議会の活性化と、生活者政治を押し進めるという二つの側面から、これらの取り組みは私たちにとって大事な取り組みとなったわけです。
この間の条例提案実践は資料の表にまとめていますが、その後も寒川町でごみの減量化に関わる条例や、二宮町で情報公開条例の制定に向けての取り組みが進められました。昨年は神奈川ネットワーク運動全体で住民基本台帳駆け込み大量閲覧防止条例制定運動に取り組み、直接請求が2自治体、議員提案が4自治体、条例制定を求める市民請願運動に8自治体が取り組み、鎌倉市と伊勢原市で条例制定が成功しました。現在は、議員定数削減が問題となる中、削減が決定的となった二宮町で、民主主義を担保すべくオンブズマン条例の議員提案を8月議会で行う予定となっています。
立法もまだまだ議会内部の制度提案や改正に傾きがちである中、市民との活動を背景に、生活に根ざした地域課題にこだわりたいと考えていますが、市民生活に関わる分野では利害調整が複雑となり、批判の憂き目に合うことも多々あります。例えば2002年にネット鎌倉が提案した、「アライグマおよびタイワンリスの餌付けを禁止し良好な生活環境および自然環境を保全する条例案」には、山のような抗議文が寄せられました。しかし、民主主義はもともとスマートなものではなく、ごちゃごちゃしたプロセスの中で合意をつくることこそが大切ではないかと思います。そう考えるとネットだけではなく、子育て世代や障がい者とその家族、商店主やサラリーマン、若者やパート労働者の方、キャリアの方など多様な地域課題を持つ方々と議論をすることが、政治の活性化につながるように思います。
そこで、議員報酬から活動費の一部をいただき、「市民社会チャレンジ基金」をつくりました。この基金には、志のある一般市民の方からも広く寄付をいただいています。基金では、地方の政治を志す方や、NPO活動で市民社会を強くしていこうとする方々に助成しています。自分たちが大きくなるよりも、たくさんのローカルパーティーが生まれ広がることが地域の政治を変え、日本の政治を変えることにつながるとの視点を持ちたいと思っています。統一地方選では通常、国政党と競うことになりますが、いつかはローカルパーティー同士が競い合うような地方選を経験してみたいと思っています。
最後に横浜市のことを少しだけ話したいと思います。議会は国政党の系列によって占められた、まるでミニ国会化したつまらない議会で、市長の頭の中も、国政治の舞台でしかないというような状態です。2年前の条例づくり交流会議で、私の質問時間は2分ですと申し上げたところ皆さんに大変驚かれましたが、逆に自分もそうなんだと驚き、ではチャレンジしてみようと変わった会派をつくりました。イデオロギーや政策でなく、議会改革を目的とした、「無所属・神奈川ネットワーク運動・市民の党・横浜市民連合クラブ」という長い名前の会派です。少数であることで常に大政党に押し切られ、いつのまにか議員としての権利が定まってしまうことに改めて異議を唱えようと活動しています。
横浜市議会はよく、「共産党をのぞくオール野党」と表現されますが、私たちはどちらにも色分けされないポジションにおり、なんとか二元代表制の原則に基づく議員活動をしていきたいと考えています。市長と話した際に、「地方議会はみんな無所属でいいんだよ」とおっしゃっておられたので、では忌憚なき意見をということで、議会では通告なしで質問する場面もあります。「通告されていないので答えません。あとで個人的にお答えします」とのやり取りがマスコミに取り上げられ、波紋をよんだこともありました。
私たちがしていることは、92人の定数の中でのあがきに過ぎないのかも知れませんが、何もしないよりは知恵を絞っておもしろい議会にしていこうと思っています。しかし、本来の政治のグラウンドは議会ではなく、市民と議員との条例づくりにあるはずです。これからも市民にとって必要なルールや制度にコミットメントして、立法運動を進めていきたいと考えています。
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