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第3部 質疑応答・議論

又木京子(神奈川ネットワーク運動 政治スクール 理事長)

 従属人口ということについてお話がありました。私の友人も、7、8年前ですが、憲法の三大義務に関して、主婦は労働と納税の義務を免除されており、一見優遇されているようにみえるが、そうではなく、人間としての権利というものが上手に奪われていたのかもしれないと話しました。

 ちょうどアンペイドワークの研究をはじめるときに、労働と納税を免除されているということが、自分たちが一人前の人間として生きる権利というのが損なわれているのではないか、もう一度、納税や労働といったものを考えていこうという話になりました。

 女性が働くようになりましたが、今でも収入を100万円の中におさめてどのように働くかということを考えてしまう方々も多いのが現状です。納税の義務の免除ということが、逆にわたしたちの自立を奪っていたのではないかということを感じました。

参加者

 本日は三大義務の見直しということで、江橋さんが義務を権利へとお話になり、竹中さんは、自治と権利とお話になりました。義務というよりも、こちらの自治と権利という言葉の方がいいかと思いました。

 福祉の進んでいるスウェーデン、障害者を納税者へという考えをお伺いしましたが、現在、病気からくる障害というものについては、補助金というものが出ています。納税者と補助金というものの関係が、どのようになっていくのかということについて、お考えをお聞かせいただければと思います。

竹中ナミ(プロップ・ステーション 理事長)

 スウェーデンは、社会福祉、社会保障を、すべて税でやると決定した国です。今、所得税が約60%で、消費税が28%で、まもなく30%になる。日本で同じことをやれば暴動が起きるでしょうが、スウェーデンでは起きません。これは、「税でやる」ということについての国民のコンセンサスができているからです。

 例えば、プロップ・ステーションで仕事をされているような最重度の障害者が、コンピューターを使って、障害を持たない人であれば20万円ぐらい稼げるプログラムを、スピードがゆっくりだということで10万円ぐらいしか稼げなかったということがあっても、同じように、60%の所得税を払い、28%の消費税を払います。そしてそれを払っているチャレンジドの人々は、「これは私の権利だ」とはっきりと言います。なぜなら、他の人と同じ税を払っているから、自分がいま働いているという状況を税によって完全に保障されているわけです。

 日本の考え方は、全く違います。この人たちは働けない人たちだから補助を与えよう、というものです。その補助によってチャンスはつかめません。先ほども言いましたが、学ぶチャンスもスキルアップする場所もありません。そういうときにどうなるかといえば、仕方がないから、下駄を履かせてもらった上に、自分でつかむチャンスがないなら、下駄を高くしてくれということになる。これがモラルハザード(社会的倫理観・責任感の欠如)を生みます。これは、障害者の問題だけではなく、過疎や三位一体の問題も同じです。日本の社会福祉の根幹に、劣る人や、なにかができない人に対して、救済するというイメージがあり、とにかく下駄だけ履かせる、その次のステップ、チャレンジするチャンスは与えないが、とりあえず下駄だけは履かせるというものです。ここが、スウェーデンやアメリカが考え方を変えたところです。

 もし、補助があるとしたら、その補助で学ぶチャンスがあり、スキルアップすることもできます。そして当然スキルアップすれば、高いペイのとれる仕事があります。アメリカの官庁街では、電動車椅子に乗り、盲導犬を連れ、対話に必ずノートテイカー(筆談用の速記者)や通訳者がつく、そういった官僚がごろごろいます。大統領補佐官にも車椅子の方が何人もいます。これらは、ケネディが宣言し、ADA法をつくり、高学歴をとれるようにしてきた結果です。

 日本は、それらのすべてナシに、補助金だけを与えます。チャンスのないところには、補助金だけを頼って生きざるを得ないという状況が、国の違い、制度の違いによって出てくる状態です。

李鐘国(東京大学 法学部 客員研究員)

 竹中さんのお話は、たいへん元気が良く、非常に勉強になりました。私も大学時代にアメリカにいたことがあります。80年代でしたが、議会や国会議員のスタッフとしてチャレンジドが積極的に仕事をする、活躍している風景を見ました。

 韓国でも、積極的に活動されている方々、特に女性の方々が増えており、社会を活性化しています。もちろん矛盾もありますが、どのように社会を活性化していくかということを考える人々が増えています。

 また、私のおじが道知事をやっておりますが、そのおじの息子は障害を持っています。選挙戦などでは相手方からそれについて嫌がらせを受けることもありましたが、障害を持っている方々が、もっと積極的に仕事をできる環境になればと思っております。韓国でも、先ほどの日本の障害者雇用制度が、そのまま導入されており、おそらく同じような弊害があったように思います。今後は、そういった方たちを社会的な資本として、社会に生かしていくことが重要だと思っています。

参加者

 私は、ジェンダーと法について研究しています。今日は、すばらしいご報告を聞かせていただきました。ありがとうございます。女性の人権についての運動は、これまで法の下の平等を定めた憲法第一四条や、家族生活における男女平等定めた憲法第二四条というものを、自分たちの運動の力にして、自分たちの権利を獲得していこう、自分で自分を支える、社会を支える一員になるという活動の力にしてきたと思っています。竹中さんのお話も、市民立憲フォーラムの提言も、そういった運動の流れに沿ったものではないかと思って共感していますが、竹中さんたちの運動の中で、憲法はどのような位置づけなのでしょうか。憲法は運動の力になったのでしょうか。それとも自分たちの運動、パワーだけで十分だとお考えなのか教えて欲しいと思います。

竹中ナミ(プロップ・ステーション 理事長)

 憲法に限らず、法律と人の意識の関係は、「こんにゃくの裏表」だと思っています。どちらが表か裏かも分からない。わずか60年前、立派な女性というのは、家庭にあり、よき母であり、よき妻であるとされました。しかも参政権もなく政治にもかかわれなかった。そう考えると、今は元気になったものだと感心しますが、この変遷にあったのは、女性たち自身の意識が変わっていったと同時に、法律も整備されたということです。そして、法が整備されることによって、また女性たちの意識が変わり、法律もよりよい方向への改正を目指す動きもでき、さらに法律も改正されていくという、「上昇するスパイラル(連鎖反応)」がありました。これは失敗すると「マイナスのスパイラル」ということになるかと思いますが、これと全く同じようなあゆみを、現在チャレンジドたちもしつつあるのではないかと思っています。

 憲法については、第一四条について、障害の有無を入れて欲しい。高齢社会のご時世ですから、私は年齢の有無も入れるべきだと思っています。EUやアメリカも定年は撤廃となっています。

 最近、自民党が憲法改正案を出しましたが、その中で、第一四条に障害の有無ということが盛り込まれることになりました。残念ながら年齢は入っていません。これは、厚生労働省で長年障害者問題を官僚として取り組み、前回の参議院選挙で議員になられた坂本由紀子さんという方が教えてくれました。女性官僚のはしりのような方で、プロップ・ステーションのような活動が今後重要になってくると、かげながらバックアップをしてくれた方でした。保守的な自民党の提言において、第一四条に障害の有無が盛り込まれた。年齢は残念ながら入っていませんが、そのように人の意識が法を変える、法をつくっていく。それによって、施行された法によって、また新たに意識が変わっていく人々も出てくるではないかと思います。法律というのは、生き物であり、道具、わたしたちのツールの一つであると考えているので、時代や自分たちが「こう使いたい」という国民の自治意識によって変えていくのは、当然のことだと思っています。憲法は、さわってはいけない、変えてはいけないといった考え方、議論には、全く共感できません。

友沢ゆみ子(神奈川ネットワーク運動)

 現在、認可型の保育園をNPO法人として、スタートしたばかりです。やはり障害を持った子どもが保育園に入りたいと思っていても、今の状態ではなかなか受け入れることができないという問い合わせがたいへん多い、ということを実感しております。また、その子どもたちは、保育園、学校、学校を出たあとにおいて、まだまだ分断されている実態というものがあり、本日はたいへん共感を持ってお話をお伺いいたしました。

 自治と権利ということで、私も市民が自治するということにこだわってきました。6年間研究してきたということですが、どういった場において制度の研究をされてきたのか、また、現在、憲法についての議論がなかなか市民の議論にならないという現状もありますので、どのように市民の議論へとしていけるか、アドバイスをいただければと思っております。

参加者

 自民党の改憲案において、障害者の差別の禁止ということが盛り込まれたということについて、その点だけは評価できるかと思いました。

小塚尚男(参加型システム研究所所長)

 圧倒されました。竹中さんのような方は、関西という土壌が生んだのでしょうか。先ほどの、「法律と意識は、こんにゃくの裏表」というお話には感動いたしました。

又木京子(神奈川ネットワーク運動政治スクール理事長)

 もう一点だけ。義務というと一番初めに思い起こすのは、義務教育という言葉だと思います。私は、化学物質過敏症の患者を支援するNPOも行っているのですが、先日ある子どもが、学校で油性マジックを使うと具合が悪くなるので使わないでほしいと訴えると、たった一人のために学校の教材をかえることはできないと言われました。やはり、義務教育というものは、権利教育へと変えないと、何十年たっても変わらないのではないかということを感じております。

村田邦子(神奈川ネットワーク運動・二宮町議)

 わたしたちは、自分たちのまちの法律、条例を変えるということに取り組んでいますが、まちの法律をつくりかえていく、法律は道具、ツールであるということについて、その重要性をあらためて感じました。

小笠原陶子(神奈川ネットワーク運動調査・政策室)

 言葉は変えられるし、言葉に力があるということを突き詰めて考えていけば、このことは、非常に重い問題であると考えます。オリジナルに言葉をつくって活用していければと思いました。

加藤朗(桜美林大学 国際学部 教授)

 グローバル・ガバナンスというものが、福祉の現場において実践されているということを目の当たりして、感動しました。自治と権利とお話になりましたが、これこそ先ほど述べた黄金律、グローバル・ガバナンスの倫理というものは、黄金律なわけです。人に助けてもらいたいと思うことを人に施しなさい、というものを目の当たりしたように思います。

須田春海(市民立法機構 共同事務局長)

 パソコンと障害者の間をつなぐには、アシスタントが必要だと思います。その人たちとの関係はどのようなものかもお伺いできればと思います。

金子匡良(法政大学法学部講師)

 私は、人権政策研究をしていますが、竹中さんのご活躍やお考えを知って、たいへんに勉強になりました。私は、大学で人権政策という講義をしていますが、そこで感じることは、学生に人権の話をしても、実感を持ってもらえないということです。こういう問題がある、といった知識としては頭に入るが、実態としてのインパクトを持たない。竹中さんのような方々が、日本中にいるかとは思いますが、そういった現場の声をいかに、小・中・高・大学において、伝えるスキルをつくっていくか、そういったことで人権意識を高めていくことが、特に障害者の問題においても重要なことではないかと思っております。

若林智子(神奈川ネットワーク運動・横浜市議)

 税負担のコンセンサスを高めていくというお話がありましたが、そのときにはやはり、税の直接性を高めていかなければ難しいのではないか、分権の議論でもあるのではないかというヒントをいただきました。

今村まゆみ(神奈川ネットワーク運動 調査・政策室)

 私は市議会議員のときは自分で保険料を納めましたが、現在はまた第三号被保険者となっております。自分がどのように生きていくかということが、現在の社会システムでは、一人の個人としてすっきりこないと思っていました。本日、義務を権利に変えていくというお話で、社会保障などを考える上でも、自分がこれから暮らしていく社会システムについて整理しやすくなるかと思いました。

 本日も差し当たり、夫に一緒にいって権利と義務について考えようと呼びかけました。憲法の議論というのは、どこかでやってくれるものではなく、自分たちで考えていくものだということが、もっと広げられればと思っております。

後藤仁(神奈川大学法学部教授)

 本日は、江橋さんが話すよりも、竹中さんのお話で非常に説得力がありました。そういった人選が良かったということで、江橋さんを褒めたいと思います。

三木由希子(情報公開クリアリングハウス室長)

 自分は、制度をつくる、直す、社会で機能させるということを、普段の仕事にしておりますが、それらは、さまざまな分野で、竹中さんたちのようなかたちで活動することが、自治意識や自分や社会の意識、自分の権利へと繋がるということを、再確認できたということで、感想とさせていただきたいと思います。

竹中ナミ(プロップ・ステーション 理事長)

 二つの質問がありました。どのような研究をしてきたかについては、旧労働省、厚生労働省が正式に立ち上げたところに、意見発言者として参画し、6年間議論をして結論を出したというものです。

 もう一つ、パソコンについては、私も15年活動してきましたが、文字を打つことしかできません。しかし、これだけで、メールができる。これで私は、一年で2000人からの相談を受け、お返事するということもしております。

 確かに重度のチャレンジドの方々にとって、パソコンのセッティングなどたいへんなことは多々あります。しかし、しっかりとお金を出して買ったユーザーは、きちんと使えるようになるまで、販売店の方に聞く権利があります。障害があろうがなかろうが、分からない時には質問する権利があります。地域にパソコンボランティアなどがいて、教えてくれれば良いのかもしれませんが、それがなくても、自分で年金を二ヶ月、三ヶ月分ためて、それをはたいてパソコンを購入しているわけです。しっかりと購入したあとにサポートを受けます。頑張ってサポートを受けるのだ、私以上にずうずうしくならなければならない、と言っております。

 先ほども話しましたが、パソコンに興味のない方々には分からないかもしれませんが、パソコンこそが自分が社会にうってでる最善の道具・ツールだと考え、取り組まれている方々は、本当に半端でない努力をつぎ込みます。そういった半端でない努力や熱意に、周りの人々も心を動かされ、応援し、彼らが今仕事のできるような状況となっていると思っております。私はパソコンはできませんが、そういったプロセスや彼らの熱意を伝える役目はできるのではないかと、思っております。

 どうも、皆さま、ありがとうございました。

司会:安藤博(東海大学 平和戦略研究所 教授)

 これで終了します。皆様、長時間充実したご議論をしていただき、ありがとうございました。


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