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資料 「第0章(主権者市民)の提案」
第0章(主権者市民)の提案
江橋 崇
憲法第三章を担当した私は、私たちの中間報告の内容として、人権の章に置くのはどうかと思われるいくつかの権利に関する条文について、国会、内閣、司法の章にばらして入れるというアイディアをお示ししました。ところが、その後、中曽根憲法改正案が、第一章を国民主権として、そこに、政党やアカウンタビリティーの条文があることを知りました。以前の読売試案は、第一章、第一条を国民主権にすることで、「憲法典で一番大事」といわれる冒頭の第一条が天皇であるという惨めな状態から脱却したという歴史的な功績はありますが、第一章の内容は空疎でした。中曽根案では、天皇は第一章よりも前の第0章第一条というウルトラ復古主義ですが、第一章の中身に関して言えば、読売案よりもいいものがあります。
そこで、なるほど、あちらがこう来るなら、こちらはこういったらいいではないか、というのが、ここで提案する第0章です。ここでは、主権者である市民の主権的な権利の「自己承認」を基礎にして、日本国の国会、内閣、裁判所、自治体、会計検査院を設置するという「設立宣言」と、国名、国旗、国歌、天皇、皇室の「確定宣言」と、設置された国家機関の主権者市民に対する「責任宣言」に集中しています。この章ができると、以前に提案したように、人権規定のいくつかを別章に移す、という必要はなくなります。その意味で、私が仮に書いてみました。ご批判ください。
なお、これについては、内容的に憲法前文になるのではないか、というご批判があろうと思います。私も、最終的には前文になるのかな、と思いますが、いくつか、実定法的な意味のある規定もありますので、この辺のバランスがいずれ問われるのだと思います。ですので、総論ご担当の方が、どのようにでもお扱いください、ということになります。
第0章 わたしたちの国のかたち。機関の責務と責任。
【第1条 主権者市民、政府の形成】
第1条 わたしたち市民は、国の政治を最終的に決定する責務が自らにあることを自覚
して、社会生活の共同管理事項を適切に管理し、また、市民相互の友愛と支援が安
定的に実現する制度を作る目的で、ここにわたしたちの政府を形成する。
第1条第2項 政府には、日本の政府と複数の自治体政府が含まれる。
【第2条 公務員の雇用、選任及び公務員の責任】
第2条 政府の公務員を選定し、及びこれを罷免することは、市民の権利である。
第2条第2項 すべて公務員は、市民全体の奉仕者であつて、一部の市民のための奉
仕者ではない。
第2条第3項 すべて公務員は、執務に際して、政治的中立を維持し、公明正大に行動
し、市民からの説明、情報公開、監査、監察の要求に誠実に対応する責任を有する。
第2条第4項 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
第2条第5項 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、
その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。
【第3条 国会の設置とその責務】
第3条 政府の中の最高機関として、また、立法をつかさどり内閣の監視を行う機関とし
て、国会を設置する。
第3条第2項 国会は、市民から付託されたその責務を積極的に実現しなければならな
い。
第3条第3項 国会は衆議院及び参議院で構成される。
【第4条 内閣の設置とその責務】
第4条 国会の定める法律及び予算をもとにそれを執行する機関として、内閣を設置す
る。
第4条第2項 内閣は、市民が法律を通じて定めたその責務を積極的かつ総合的に実
現しなければならない。
【第5条 国旗と国歌の設置】
第5条 この国の国名は日本国(にほんこく)、国旗は日章旗、第一国歌は君が代とす
る
。ただし、国会は、第一国歌の歌詞および楽曲を変更し、又は、別に第二国歌を選
定することができる。
【第6条 天皇と皇室の設置及びそれに関する責務と責任】
第6条 日本国及び日本国における市民統合の象徴として、天皇及び皇室を置く。
第6条第2項 政府の最高機関である国会は、内閣の助言と承認を通じて天皇及び皇
室の公的な行為を指揮監督する。
第6条第3項 国会及び内閣は、天皇及び皇室に関連して市民から与えられた責務を積
極的に実現しなければならない。
【第7条 裁判所の設置とその責務】
第7条 社会において、市民の人権を保護し、法的な紛争を解決し、犯罪事件を裁き、あ
わせて、公務の執行が引き起こす個人の権利侵害の救済を行う機関として、最高裁
判所以下の各級の裁判所を設ける。
第7条第2項 市民は、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
第7条第3項 裁判所は、各々、この憲法と法によって市民から付託された責務を積極
的に実現しなければならない。
【第8条 自治体政府の設置とその責務】
第8条 市民は、その生活する地域において、地域の政府を組織することができる。市
民は自治の基本となる地域の自主立法を行い、税と負担金を分かち合って拠出し、
自治体を設立してその活動に参画することを通じて、地域における多様な市民の自
由
、安全、発展、連帯の権利を自ら確保するものとする。
第8条第2項 自治体の組織及び運営に関する事項は、共通の重要管理事項について
国が定める基本的な法律のもとで、地域における市民が自主的に決定するものとす
る。
【第9条 会計検査院の設置とその責務】
第9条 政府の財政を監視し、収入支出の決算をつかさどる機関として、会計検査院を
設置する。
第9条第2項 会計検査院は、市民から付託されたその職務を速やかに実現し、国会に
よる政府財政の監督に協力しなければならない。
【第10条 請願処理の責任】
第10条 市民は、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は
改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたた
めにいかなる差別待遇も受けない。
【第11条 政府の国家賠償責任】
第11条 市民は、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところ
により、国又は自治体に、その賠償を求めることができる。
【第12条 法定の手続きの保障】
第12条 市民は、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、
又はその他の刑罰を科せられない。
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