提言目次 > 資料 増補型改憲のイメージ「市民の自由と権利の保障」

増補型改憲のイメージ
憲法第三章「市民の自由と権利の保障」

江橋 崇(法政大学法学部教授)

第二次大戦後の日本社会で市民の自由と権利のために市民の運動が主張してきた点を中心にして憲法第三章を増補するとした場合に、どのような改正になるのか、増補型改憲の立場からのイメージを提示しておきたい。特に断っておきたい点がいくつかある。

@これは、あくまでも、私が考えついたものを並べたイメージ図であって、実際の提案時には、最も広く国民的合意に達しているものを少数選んで、改正を提案することになるであろう。

A市民運動の立場といっても、私が市民運動を見ていて論点を考えたものであり、当該の市民運動や、それに携わってきた人々の意見を聞いたり、それに従って作ったりしたものではない。むしろ、そういう人々から見れば、多くの誤りや、許しがたい誤解が含まれているのではないかと恐れている。

B私としては、こうして全体のイメージを示すことで、反差別や市民の自由と権利の運動を行ってきた団体や、それを推し進めていた人々が、私ごときに言いたい放題をさせることはないと決起し、まさに運動の当事者として、その思うところを憲法議論に投入してくれるといいと思うのである。日本社会で、市民の自由と権利を作ってきた人々の声を聞かせてほしいと思う。当事者の声こそ、もっとも真剣に聞かれるべき価値があるのだから。

Cこれまで、わたしたち市民立憲フォーラムでまだ十分に議論されていない論点がいくつかあるが、それらのうち、財産権制度の問題と、信教の自由の問題は、これから始まる市民間討議において、ぜひとも議題として設定して集中的に議論してほしいと思う。

D増補型改憲の立場からは、憲法の現在の条文については改正を見送ることになるが、送り仮名が現在のものと違うので、その点に限って改正というよりも改訂をすることがありうる。該当部分をカッコで示した。

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【章の表題】
「第三章 国民の権利及び義務」を「第三章 市民の自由と権利の保障」にする
(理由)日本社会においては、「義務」は、上に位置する政府が、その考えた公益を実現するために下に位置する市民に向けて命令するものと観念される。これと併置されたとき、「権利」もまた、公益を考えて政府が上から、下にいる市民に与えるものというイメージになる。
憲法上の自由と権利は、そのようなものではなくて、市民が政府に対して保護と促進を求めるものである。市民運動は、特に1970年代以降には、こういう意味で、裁判でも主張できる自由と権利を主張し、また、政府の積極的な施策促進の責務を追及してきた。日本国憲法上の基本的人権は、市民運動によって、社会で機能するようになり、新しい命を与えられた人権である。このことを強調するためには、第三章の名称を「市民の自由と権利の保障」にしたほうが良い。もう少し能動的にして、「市民の自由と権利が保障される社会をつくる」になるのもよい。
ここで「基本的人権」という言葉の使用をやめた理由を簡単に述べておきたい。日本国憲法で言う「基本的人権」に相当する内容で、第二次大戦後の国際社会で使われてきたのは、human rights and fundamental freedoms という5単語の英語である。国連憲章第1条第3号が、国連の設置される目的のひとつとして、「人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成する」と定めた際に「人権及び基本的自由」としたのも、世界人権宣言前文が「加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約した」と述べた際に同じ言葉を使ったのも、こうした趣旨の表れである。
こうした市民の自由と権利については、憲法第97条で、「現在及び将来の国民に対して、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」とされている。そうするとそれは、日本国民(市民)の固有の持ち物ではなく、他者から信託された、本来は他者のものということになる。単一神を持たない日本文化ではこうなる。この表現は、市民の自由と権利の根源性の観念からすると誤解を呼んで良くない。また、ここでは、自然権であることが強調されているが、実際には、憲法第3章に書かれている「基本的人権」には、政府の存在を前提にした制度上の権利があったり、刑事裁判手続き上の権利があったりして、すべてを自然権とする理解は困難である。憲法学者の中でも、「憲法上の人権」とか「憲法の保障する権利」という別の表現がとられる。そして、「基本的人権」は、しばしば、無謬の政府によって市民に信託される価値と考えられてきた。政府は、理解の浅い市民をくりかえし啓発することになる。
このように、「基本的人権」という言葉には、上から下へ、官から民へ、中央から地方へ、というニュアンスが強くまとわりついていたので、1970年代以降に市民運動が人権を主張する際には、「基本的人権」よりも、「人たる権利」ないし「市民の権利」の語が好まれた。この置き換えによって、それが憲法の制定者から市民に与えられた信託財産ではなく、市民が人間として生まれたときに保有する本来的な自己資産であるとことがよりいっそう明確になり、権利と明言することで政府の義務が浮かび上がり、いわば、下から上に向けて戦う武器としての言葉になりえたのである。このような経緯を経て、今日では、「市民の自由と権利」のほうが、「基本的人権」よりも市民の人権感覚に適合する言葉になっていると思われるのである。
なお、後述するように、「憲法上の義務」という観念は市民主権の社会にあっては有害無益であるので削除することになる。この点からも、「義務」を章の名称に使う理由がない。

【第10条 日本国籍の取得とそれからの離脱の権利 存在を登録される権利】
第10条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第10条第2項 前項の法律は、この憲法の施行される日にすでに日本国民である市民、日本国内に生活の本拠を置く市民及びその配偶者並びにその子孫は、この憲法の下での日本国民であることを原則として定められるものとする。ただし、法律は、この憲法の施行される日に日本国内に生活の本拠を置く市民及びその配偶者並びにその子孫に、その自由意思による国籍選択の権利を保障するとともに、この日の後に日本国民となろうとする市民の日本国籍取得、または、日本国籍を放棄しようとする市民の国籍離脱について、国際人権保障の原則のもとで定めるものとする。
第10条第3項 市民は、その出生又は日本国への入国において、適正に登録される権利及び自己に関して登録された情報を知る権利を有する。

(理由)現行の憲法第10条は簡略に過ぎて政府に対する義務付けが不明確であり、時には完全な自由裁量権を与えたものであるかのように解釈されてきた。その点を反省して、第2項として、これまでの誤った憲法解釈によって不当に日本国籍を認められなかった旧植民地出身者、特に在日韓国・朝鮮人などを念頭において、改正憲法が施行される日に、一斉に、無条件の国籍取得を認めるものとする。ただし、本人が希望して別の国籍を取得するか、日本国籍を自己にそぐわないものとして拒否することもできるようにしておく必要がある。
また、第二次大戦後の国際社会においては、二重国籍の防止よりも無国籍の防止のほうが優先され、国籍取得の条件が簡素化されたのに反して、日本は、厳重な制限を設けて国籍取得を著しく困難にしてきた。このことを反省して、国籍取得や国籍放棄については、国際社会における国際人権保障の水準を下回ることのないようにするという範囲内での立法裁量権を認めることにする。この規定ができることによって、戦後の日本社会における最大の人権問題の一つであった在日韓国・朝鮮人差別の終わりの始まりにすることができよう。
一方、第3項に取り上げる、適正に登録される権利は、国際人権規約などの認めるところであり、子どもの権利の保護のために、難民家族や不正規滞在の国際家族の子どもにおいて特に必要とされている。また、自己の出生に関する情報を知る権利は、生殖医療技術の進展に伴って問題とされているところであり、保護されなければならない。

【第11条 平和的生存権、市民の自由と権利に関する国際協力】
第11条 国民(市民)は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民(市民)に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民(市民)に与へ(え)られる。
第11条第2項 全世界の市民は、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する。日本国は、広く国際社会においてこの権利が保護され、促進されるように、関心を持ち、協力し、支援することに努める。
(理由)第2項の前半部分は現行憲法前文の文章を移したものである。こうして条文化することで、規範性がいっそう明確になる。平和運動が平和的生存権に求めてきたポイントである。後半は、日本国憲法を国際人権保障の水準と連動させるべき思想的根拠を明示するものである。1980年代以降、「人権問題は国際社会の正当な共通の関心事項」という考え方が国際人権保障の基本思想であったことに由来する。日本は、国連やその他の国際機関による監視活動、各種の通報、報告制度を活用して関心を示し、国連などの国際機関や問題に応じて構成される国際連携の活動に協力し、ODAなどを活用して支援する規定を設けた。

【第12条 自由と権利にかかわる政府の責務、市民による濫用の禁止】
第12条 この憲法が国民(市民)に保障する自由及び権利は、国民(市民)の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民(市民)は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ(う)。
第12条第2項 政府は、この憲法の保障する自由及び権利を保護する義務を有するとともに、その積極的な増進に努める責務を有する。
第12条第3項 市民の人たる生存は、生活を共有する地域において成立するものであり、この憲法の保障する自由及び権利は、地域の共同生活の持続的な発展の確保の利益と調和するものである。

(理由)現在の憲法12条は、「国民」に対して、@人権の保持に不断の努力をせよ、A濫用するな、B公共の福祉のためにこれを用いよ、と命令し、「責任」を強調している。これでは、人権は国からありがたくも与えられたものであり、国民(市民)はその使い方もおぼつかないので訓示する、ということになり、よろしくない。そこで、とりあえずこの片面性を改めて、第2項で、政府の保護義務と積極的な促進の責務について定めることが望ましい。
また、第3項では、市民の自由と権利と地域における共同生活とを関係付けることを通じて、市民の自由と権利の主張が過剰に濫用されて(差別表現、ストーカー、性犯罪者など)、地域の人々の生存や安全を危険にさらすことがないように配慮するとともに、地域の環境の保全も含んだ「人権文化のまちづくり」が推進されるようにした。部落解放運動や、性犯罪、児童虐待問題に取り組んできた地域団体の主張してきたところである。

【第13条 個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利、公共の福祉、政府の施策実施義務】
第13条 すべて国民(市民)は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民(市民)の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第13条第2項 市民の生命は尊厳に満ちたものであり、科学及び医学の領域において、人としての尊厳性を損なう行為は禁止される。
第13条第3項 市民には、性と生殖に関する権利が認められる。この権利に反して市民の生命ないし身体の一部を科学技術によって創出し、あるいは消滅させることは禁止される。このことを目的とする研究も禁止される。出生前の子どもは市民としての尊厳性を認められ、出生前診断は、母親の生命、安全の確保など、真にやむをえない場合を除いては禁止される。
第13条第4項 政府は、親と協力して、胎児が、その発育に有害な環境に置かれたり、有害な物質を摂取したりすることのないように配慮する責務を有する。
第13条第5項 市民の死は尊厳に満ちたものであり、死にゆく市民は、最大限の敬意と最善の医療をもって遇されるものとする。
第13条第6項 市民の生死及び疾病の治療に関する情報は、やむをえない特別の事情のない限り、本人又は家族などに開示され、治療は本人又は家族などの同意のもとに行われなければならない。安楽死、尊厳死、臓器提供などについては、その倫理性を確保しつつ、本人又は家族などの意思が最大限に尊重されなければならない。
第13条第7項 個人の尊厳性を確保するために、市民は、その病歴・障害歴、過去の補導・逮捕・受刑歴、又は犯罪被害歴などの個人情報をみだりに公開されることのない権利を有する。

(理由)市民の生死に関わる自由と権利の問題を個々に集約的に集めた。第2項は科学及び医学のあり方に関する最も基本的な条件であり、第3項、第4項、第5項は出生に関する基本的な権利、第6項、第7項は死に関する基本的な権利を加えることとした。第3項は、市民の性と生殖に関する権利を認めるものである。また、第8項は、プライバシーの権利を保護し、不当な差別が生じないように配慮する規定である。

【第14条 法の下の平等、貴族制度の禁止、栄典の限度、外国人の自由と権利の保障、差別・複合差別の禁止】
第14条 すべて国民(市民)は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第14条第2項 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
第14条第3項 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴は(わ)ない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第14条第4項 この憲法の保障する市民の自由と権利は、この憲法の施行される地域を生活の本拠とするすべての市民に対して平等に保障される。ここを生活の本拠としていない市民に対しても、やむをえない場合の制限を除いては、平等に保障される。
第14条第5項 市民に対する差別は禁止される。政府は、第1項に定めるもののほか、市民の身体、精神、出身、信仰、職業、居住地、学歴などによる差別の廃絶、特に、複数の差別事由が複合したときに生じる複合差別の廃絶に向けて取り組む。

(理由)外国人に対する自由と権利の保障原則を第4項として明示する必要がある。日本国籍を保有するか、永住権が認められるなど、ここを生活の本拠としている市民の人権保障と、一時的滞在者への人権保障では、負担金の拠出歴や、場合によっては相互主義の関係で国籍によって保護の程度に微妙な差異が生じることがある。
第5項は、現在の憲法ではあいまいな差別禁止の原則を明示するとともに、政府の差別撤廃にむけた施策の実施を義務付けるものである。なお、最近問題視されている複合差別への取り組みもここにあげてある。

【第15条 公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障】
〔第0章 主権者市民の章に移す〕
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民(市民)固有の権利である。
第15条第2項 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
第15条第3項 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
第15条第4項 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問は(わ)れない。
(理由)国の政治のあり方の基本にかかわる条文であるので、主権規定の章に移すことが望ましい。

【第16条 請願権の保障】
〔第0章 主権者市民の章に移す〕
第16条 何人も(市民は)、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
(理由)請願の相手先は国会のみならず、内閣や政府の諸機関でも可能である。市民と政府の関係に関する規定であり、主権規定の章に移すほうが良い。

【第17条 国及び自治体の賠償責任】
〔第0章 主権者市民の章に移す〕
第17条 何人も(市民は)、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体(自治体)に、その賠償を求めることができる。
(理由)これは、そもそも憲法事項であるのかが疑問である。一般の不法行為の損害賠償を定めているのは民法であって、憲法ではない。その特例法である公務員の不法行為の損害賠償なのであるから、公務員に関する規定に移すほうが良い。

【第18条 奴隷的拘束及び苦役からの自由】
第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第18条第2項 政府は、市民が、社会において、政治的、経済的又は社会的関係を理由に奴隷的拘束を受けることのないよう、あらゆる機会を通じてこれを非難し、排除するために努力する。
(理由)憲法第18条の奴隷的拘束からの自由は、制定当時から、その趣旨が不明確であった。日本は、すでに1870年代に奴隷制を廃止しているのであるから、これは奴隷制の廃止を謳ったものではない。本条の問題は、現代奴隷制として、もっぱら社会関係において発生する。そのことと、この社会問題に関する政府の監視と是正の責務を明確にするために、第2項の規定を置くべきである。ヤクザなどの国際ブローカーによる、性風俗産業における売春女性確保のための移送や奴隷的拘束と闘ってきた人の主張を取り入れた。

【第19条 思想及び良心の自由】
第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
(理由)今回は特に増補を検討せずにおいて、後の議論を待ちたい。

【第20条 信教の自由、政教分離】
第20条 信教の自由は、何人(いかなる市民)に対してもこれを保障する。
第20条第2項 いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。何人も(市民は)、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
第20条第3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
(理由)問題点は多々ある。今後、本格的な議論を経て増補を考えてみたい。

【第21条 集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】
第21条第1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第21条第2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第21条第3項 第1項の保障する表現の自由の行使及び情報の発信、伝達に際しては、情報を受領する市民について、そのプライバシーが守られるとともに、自己情報について知る権利及び誤った自己情報の訂正を求める権利が満たされるものとする。また、自らに関して報道され、情報を流通される市民については、事前に、やむをえない場合は事後に、その旨を通知される権利を有するものとする。ただし、公共に関わって表現され、あるいは情報を伝達された場合についてはこの限りではない。
(理由)コンピュータ社会における個人情報の保護と、報道によるプライバシー侵害からの保護をともに規定すると、第3項のようになる。

【第22条 移住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由、国外滞在者の保護】
第22条 何人も(市民は)、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
第22条第2項 何人も(市民は)、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第22条第3項 日本を生活の本拠とする市民は、海外に移住し、あるいは海外に滞在することをもって、当然にこの憲法の保障する市民の自由と権利の保護を失うことはない。
第22条第4項 政府は、国外に滞在している市民、又はその意に反して国外に移送、滞在させられている市民及びその家族に関し、滞在地における公私の自由と権利の侵害から保護し、特に帰国の権利を確保するものとする。
第22条第5項 移転の自由の行使については、転出元及び転入先の双方の地域において、その地域の発展を維持するために必要な、適正な条件を定めることを妨げない。
第22条第6項 市民は、職業選択の自由に基づいて職業を選び、それを自由に遂行することができる。ただし、特定の職業に関しては、市民の安全、善良な社会秩序を守るため、就業する市民の資格、職業の内容、それが行われる場所・時間などを配慮して、職業遂行に特別の条件を付することができる。
第22条第7項 経済活動における物及び情報の生産、流通、消費においては、この三部門の間で相互に調和のある関係が必要であり、市民の経済活動の受け手である消費者市民には、消費者の権利が認められる。
第22条第8項 政府は、消費者の権利が、基本的に必要なものが十分に満たされる権利、健康な環境への権利、安全への権利、選択の権利を含むものとして保障されるように、情報の提供、消費者教育、苦情の救済、消費者行政への消費者の参画を含む総合的な施策を展開するものとする。

(理由)憲法第22条は、もともと多くの問題が入れ込んであり、その各々の規定を整備すると膨大になる。できれば、これを条文として分割して、数か条にするのが望ましい。
第3項と第4項は、海外滞在者とその家族、特に国際家族で日本国籍のない市民の自由と権利の保護のための規定である。家族の共同生活の権利、子どもの教育を受ける権利、社会福祉、社会保障、公衆衛生などにおける権利、参政権などが保護の対象となる。第4項の帰国の権利保障は、拉致被害者の自由と権利の問題が念頭にある。
大量、急激な市民の転入、転出は、実際に高度成長期に起きたように、地域の社会投資、管理の負担を増大させる。特に、市民が努力して、財政的な支出増にも応じて優れた住環境を作り出した地域に、適正な負担もなしに飛び乗りするフリーライダーについては、ただ乗りを許さずに、応分の負担を求めることがありうる。第5項はそうした規定である。
第6項は職業選択の自由に関わるものである。実際に各地で紛争が起きているところであるが、人権のまちづくりの見地からの性風俗産業の規制には道を開いておくべきである。性風俗産業の横行やそこから生じる弊害と闘っている地域市民の願いを実現するには、こういう規定が必要である。
経済活動における権利の関係を、生産中心に偏って理解しないように、受け手、消費者の立場を明示する必要がある。消費者の権利を憲法上の権利とすることで、消費者運動の立場は強まる。第7項、第8項はそういう趣旨のものであり、国際社会で認められている内容に準じている。

【第23条 学問の自由】
第23条 学問の自由は、これを保障する。
(理由)今回は議論していない。後の議論を待ちたい。

【第24条 家族生活における個人の尊重、両性の本質的平等、家族を形成する権利】
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基(づ)いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
第24条第2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第24条第3項 市民は、家族を形成して、共同生活を営む権利を有する。ただし、この権利は、政治的、宗教的などの理由に基づいて排他的に形成される孤立した集団生活を営むことまでを保障するものではない。
第24条第4項 前三項の規定は、同性婚及び共同生活を営む単身者にも適用される。共同生活は、参加する市民が相互に同等の権利を有することを基本として、相互の協力によって維持される。共同生活を営む市民の間における扶養及び相続の権利などについては、異性婚、同性婚、単身者の共同生活のいずれにも適用されるものとして、法律でこれを定める。

(理由)家族の形成は、異性間の登録された結婚を意味する「婚姻」および「養子縁組」に限られない。以前から半ば認められている内縁の夫妻に加えて、同性婚、友愛共同生活も保護されるべきである。ただし、この際には、極端な暴力主義的政治集団(連合赤軍など)、カルト集団(オウムなど)、暴力団、犯罪者集団、性風俗産業者などによる共同生活の規制が可能なように配慮しておく必要がある。
現在の憲法第24条第1項で定められている婚姻の基本原則を、そのほかの家族にも拡大しておく必要がある。第4項で扶養を権利としたこと、相続権を認めたことは、いずれも大きな議論となるだろう。

【第25条 生存権、市民の生活環境の保全と向上に関する政府の義務】
第25条 すべて国民(市民)は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第25条第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第25条第3項 政府は、本条第1項に規定する健康で文化的な生活が単一のものではなく、市民は、人種、民族、年齢、性別、社会的身分、出身地、母語ないし手話を含む使用言語、居住、障害の有無、疾病の有無などの違いから、多様に健康であり、多様に文化的であることを認識し、社会における文化の多様性を確保するために最大限の努力を行うものとする。
第25条第4項 市民は、良好な環境のうちに生活する権利を有する。政府は、環境の破壊を防止する義務を有し、市民の生活と良好な環境の保全のために、制度を整備し、施策を立案し、執行する責務を有する。
第25条第5項 市民の健康で文化的な生活の維持、発展に資するために、政府は、地域において、環境と調和しつつ、労働のあり方、衣食住のあり方、交通のあり方、廃棄物の処理のあり方などを含めて、広い領域に及ぶ施策を立案して遂行し、良好な市民生活の維持、発展に最大限の努力を行うものとする。

(理由)第3項は、社会における多様性の確保の必要性、及び、アイヌなどの少数民族ないし先住民族の固有の文化を保障せよという主張に応えたものである。政府による多様性確保義務が定められるべきである。
第4項は、環境権に関する規定である。環境が破壊される場合は、政府を相手に、破壊の差し止め、将来に向けた防止を求める権利がある。
第5項は、生存権確保が多方面の施策を必要としており、政府には、総合的な施策の立案と遂行が求められていることを確認する規定である。食に関わる運動、住に関わる運動、交通問題に関わる運動、廃棄物に関わる運動、リサイクルの運動などに深くかかわるところがある。

【第26条 教育を受ける権利及びそれを受けさせる権利】
第26条 すべて国民(市民)は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
第26条第2項 すべて国民(市民)は、法律の定めるところにより、その保護する子女(子ども)に普通教育を受けさせる義務を負ふ(権利を有する)。義務教育は、これを無償とする。
第26条第3項 政府は、教育を受ける権利及びそれを受けさせる権利を実現するため、教育に求められる多様性に留意しつつ、地域社会と協働して公教育制度を整えて適正に管理運営する責務を有する。公教育制度は、市民の自主的な教育のための施設の設置、運営を阻害するものであってはならない。
(理由)就学させる義務という観念は、教育が国の利益のために行われ、市民はそれに協力するべき存在であるという観念をもたらす。教育は子ども本人のために行われるものである。この趣旨を明確にするために、第2項から、「国民の義務」という考え方を削除する。障害児の教育権の運動、フリースクールの運動などの要求してきた発想の転換である。第3項は、公教育の限界について明記するものである。教育が権利であり、国には義務、責務があることを明確にしておきたい。また、民族学校、インタナショナル・スクール、私塾などへの差別的な処遇を排除するための規定でもある。政府に求めているのは、公教育制度であって、普通教育制度に限るものではない。なお、ここでは、多様性の保障の必要があり、先住民族文化、少数民族文化、地方文化、地域文化などを維持、発展させる特色ある教育が奨励される。

【第27条 勤労の権利・義務、勤労条件の基準、児童酷使の禁止】
第27条 すべて国民(市民)は、勤労(労働)の権利を有し(有する)、義務を負ふ(5文字削除)。
第27条第2項 賃金、就業時間、休息その他の労働条件に関する基準は、法律でこれを定める。
第27条第3項 児童は、これを酷使してはならない。
第27条第4項 市民の労働は、本人及びその家族の健康で文化的な生活を支える基本的な行為であり、それゆえに、労働そのものも健康で文化的に行われるものとする。
(理由)生存権規定と労働の権利の関係を明示するものである。なお、「勤労」という言葉は、不健康で非文化的な就労を全体の利益のために許容する効果を持つ危険な言葉であるので、「義務」とともに廃止して「労働」に換える。ついで、ここでは、労働のあり方も問題になる。採用試験における人格を否定するような言動、賃金、就業時間、労働の内容、就労時の職場環境、セクシュアル・ハラスメントなどから、単身赴任、海外赴任、休暇などまで、本人と家族にとって「健康で文化的」な労働であることを阻害するような行為の規制が求められる。労働運動、女性の人権の運動から、過労死に関する運動まで、日本の労働の不健康さ、文化性のなさと闘ってきた運動の願いである。

【第28条 労働基本権】
第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
(理由)後の議論を待つ。

【第29条 財産権】
第29条第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第29条第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに(ように)、法律でこれを定める。
第29条第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひ(い)ることができる。
(理由)問題は山積しており、今後、大きな議論が必要である。今回は、議論が不十分なので見送る。

【第30条 納税の権利】
第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。(この一文を削除)
第30条 市民は、社会の管理と互助のために税を拠出する権利を有し、また、各種の負担金の拠出に応じるものとする。
第30条第2項 政府は、法律に従って、税金及び負担金について、その納入を受け、適正に管理、執行する責務を有する。税及び負担金の納入は納入する市民の間で公正なものとして行われ、その管理と支出は納入する市民の権利を満たすように透明で適切なものとして行われるものとする。

(理由)現在の日本国憲法における税と負担金に関する考え方が、封建社会のお年貢とさほど変わらないのを抜本的に改めて、市民による税の拠出(ゼロの拠出、マイナスの拠出も含む)という行為は、主権者としての持ち分を保有する効果を生じさせる権利であることを明確に確認するものである。税の拠出なくして主権者たる市民なしと考えたい。あわせて、現行憲法では一切触れていない負担(原因者負担、利用者負担、受益者負担)についても一番基本的な部分を明示することが必要であろう。これらを通じて、納税者になる権利も保障されることになる。
第2項は、税や負担金に関するこれまでの国家至上主義的な理解、一方的な収奪でよしとする理論を退けて、納税者の基本権を保障するものである。市民の側の権利性と、政府の側の義務性を明示するためにこの規定を加えた。

【第31条 法定手続の保障】
〔第0章 主権者市民の章に移す〕
第31条 何人も(市民は)、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪は(わ)れ、又はその他の刑罰を科せられない。

【第32条 裁判を受ける権利】
〔第0章 主権者市民の章に移す〕
第32条 何人も(市民は)、裁判所において裁判を受ける権利を奪は(わ)れない。

【第33条 逮捕に関する保障】
〔司法の章に移す〕
第33条 何人も(市民は)、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐ(い)る犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されない。

【第34条 抑留・拘禁に対する保障】
〔司法の章に移す〕
第34条 何人も(市民は)、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へ(え)られなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も(市民は)、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
 
【第35条 住居侵入・捜索・押収に対する保障】
〔司法の章に移す〕
第35条 何人も(市民は)、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基(基づ)いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
第35条第2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ(う)。

【第36条 拷問及び残虐な刑罰の禁止】
〔司法の章に移す〕

第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

【第37条 刑事被告人の諸権利】
〔司法の章に移す〕

第37条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
第37条第2項 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へ(え)られ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
第37条第3項 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附(付) する。
 
【第38条 不利益な供述強要の禁止、自白の証拠能力】
〔司法の章に移す〕

第38条 何人も(市民は)、自己に不利益な供述を強要されない。
第38条第2項 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
第38条第3項 何人も(市民は)、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
 
【第39条 遡及処罰の禁止、一事不再理】
〔司法の章に移す〕

第39条 何人も(市民は)、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問は(わ)れない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問は(わ)れない。

【第40条 刑事補償】
〔司法の章に移す〕

第40条 何人も(市民は)、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。


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