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地域の自治

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【提案骨子】

 憲法第8章「地方自治」を削除し、次に改める。

 第◎章 [地域の自治]

 第○条 [自治体の設立と自治を営む権利]
  わたしたち市民は、人としての共通の利益を守り、かつ、創ることを目的に「地域の政
 府」を組織し、自治体を設立し、地域で自治を営む権利を有する。

 第○条 [地域の政府に関するわたしたちの権利]
  わたしたち市民が「地域の政府」を組織し自治体を設立する場合、その基となる自治
 基本条例は、次の権利を尊重しなければならない。

1.「地域の政府」の組織形態を自ら決定して創造する権利
2.代表者らを直接選挙する権利、及び、必要な場合は罷免する権利
3.政策発案および政策選択にあたり、代表者の決定を信頼するととも
  に、必要に応じ直接決定する権利
4.条例を制定し条例にもとづき自治体を運営する権利
5.自ら決定する税を負担し地域を経営しサービスを享受する権利
6.代表者らと紛争が生まれた場合に裁判でその当否を決める権利

 第○条 [政府間関係の原則]
  わたしたちの「政府」は、身近な「地域の政府」の意思を大切にし、より「広域の政府
 」が補完し、「中央の政府」がさらにこれを補完することを原則とし、各政府で定める法
 を互いに尊重し、法が競合する場合にもこの原則を重視すること。
  「中央の政府」が定める自治基本法は、自治体の共通事項に関する最小限の基準
 法とし、「中央の政府」と「地域の政府」の関係を律するとともに、次の各項を含む。

1.自治体の種類は、基礎自治体の種類と規模、広域自治体の種類と
  規模、広域自治体を超える道州について、その標準を記す。
2.政府間関係を調整するため、中央の政府代表・地域の政府代表・一
  般の市民の対等な三者構成の自治協議会を設置すること。自治協議
  会は、法律・条例関係、税目調整、事務分担などを討議するが、紛争
  が解決不能な場合は司法判断を求めて決定すること。
3.「地域の政府」が「中央の政府」の意思決定に参加することを保障す
  ること。
4.「中央の政府」が制定する法律が特定の「地域の政府」のあり方を拘
  束する法律を制定する場合には、その「地域の政府」を組織した市民
  の直接投票による承認を必要とすること。

【提案理由・背景説明】

1.戦前の明治憲法には「地方自治」に関する記述が無かった。戦後も日本側の憲法草案や専門家による提言にも「地方自治」は無いに等しかった。GHQ草案はアメリカ型の考えを取り入れた。実際の日本国憲法第8章「地方自治」(92条〜95条)は、GHQと内務官僚の妥協の産物で、明晰さを欠く表現になってしまった

2.上記のような経緯で作られた現行憲法の「地方自治」には、次のような問題点がある。

a.地方公共団体という位置づけ

 憲法は、第17条において、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と記し、「公共団体」なるものを挿入している。その公共団体の一種が「地方公共団体」であることは、日本の行政法学の講学で明らかである。公共団体とは、英文のPublic Entityとは様相をことにし、国により権能を付与された国の機関の構成要素である。自治体を「地方公共団体」とよぶことは戦後憲法の精神からしても「もはや適切ではない」(兼子仁)。
 また、日本国憲法の条文は「地方公共団体」を主語にするため、いわゆる団体自治に偏った解釈を生みやすい。

b.「地方自治の本旨」の判りにくさ

 地方自治の本旨とは何か、講壇で繰り返されているテーマである。GHQ草案との相違もすでに何度も指摘されている。「地域の政府」の法としての「自治基本条例」の制定権、いいかえれば、自治体設置の権利が明文化される必要があろう。

c.組織イメージの曖昧さ

 日本国憲法の条文では、「地方公共団体」の機構は、大統領制(二元代表制)であれ理事会制であれ、採用できるように読める。しかし、文章はより明確にすべきだろう。まして、憲法第93条第1項が、議会の機能を議事機関と限定して立法機関としての機能を抑制しているように見えるのは好ましくない。

d. 吏員という区別語

 日本国憲法には、公務員(public officials)、官吏(administer)、吏員(local officials)の使い分けが見られる。「地方公共団体」に「官」に仕える「吏」員をおく、という規定は、明らかに官職のヒエラルヒーに基づく、前時代的用語法である。

e.特定地域住民投票の死文化

 日本国憲法第95条は、わたしたち市民がその地域の利害に関して、「国の法」制定権に制限を加えうることを認めた、きわめて大切な規定である。戦後何度か実施されたが、時を経ずして死文化した。それは、国の行政が憲法規定を回避する行政技術と立法手法を開発した「成果」である。いまの憲法条文には、国の行政が自分に都合悪いことを回避して、空文・死文あるいは歪曲する現象が、散見されるが、この憲法回避体質を「克服」する方法も、新しい規定には必要だ。

3.わたしたちの提案する「地域の政府」について
 まず、用語について記す。
 「政府」は一般的には国と同義と見られることが多いが、今回は両者を峻別した。「地域の政府」との対応で「中央の政府」という言葉を使ったが、中央志向の語感は免れない。これに代わる用法として自治体政府・国の政府がある。この用語を避けたのは、社会と団体を混同する文化が強く、団体統治概念が残ることを警戒したためである。いずれにしても十全とはいえない。
 この「地域の政府」の規定を、「中央の政府」に当てはめると次のようになろう。
 「わたしたち市民は、・・・・「中央の政府」を組織し、国を設置し、日本のすべての地域で自治を営む権利を有する」
 政府という組織体のもとに、国・自治体という団体が生まれ、そこで「自治を営む」ことになる。「自治を営む」とは、自己統治や、セルフ・ガバナンス、シビル・ガバナンスの謂である。

 

a.「連邦制」の検討

 沖縄県のありかたや、あらたな広域政府(道州制)の論点提起などを考慮し、連邦制の可能性について議論したが、今回は、「補完性の原理」に基づく政府間関係の整序を第一課題とし、分権型政府構造の徹底に重点を置いた。

b.「国」中心から多様で重層する政府構造に

 したがって、憲法は「連邦型」とせず「単一」としたが、憲法に直接自治基本条例を記すと共に、多様で重層する政府構造のうち、もっとも「身近な政府」を優先することを重視した。

c.市民の参加権

 ホームルール・チャーター制を採用したが、同時に、市民の参加権を直接選挙権だけでなく、個別に明記した。

4.「憲法」を変えなくとも出来る改革

 日本国憲法条文には、上記2に記したように問題点が多々ある。しかし憲法を条文のみでなく、各個別法や条例をも含めた、法の集合体「憲法体制」としてとらえると、問題点は憲法条文そのものより、関連する個別法により多く発見される。とくに「地域の政府」と「中央の政府」の関係が、行政一体型の集権システムであったために、わたしたち市民の生活領域での自治はさまざまな制約の中にある。闊達で自由な生活を創造する妨げになっているケースも目立つ。戦後体制の制度疲労は憲法条文より、各個別法の在り方にある。戦後の市民運動の歴史は、この制約との格闘であり、憲法と個別法との歪んだ接合を、日々修正する努力でもあった。以下、要点を列挙する。

 

a.地方自治法、関連法の廃止

 ことこまかく「地方公共団体」の在り方を規定する地方自治法はそれ自体が「地方自治の本旨」に合致していない。それゆえ、現行地方自治法を廃止し、自治基本法を制定することはいまの憲法のもとで可能である。さらに、現行の憲法・地方自治法のもとでも、機関委任事務廃止以降、各地で多様な自治基本条例が制定されつつある。この動きは市民による地域立憲として十分評価に値する。
 いまだに、自治体を「地方公共団体」以前の「地方団体」と規定する財政関連法、地方税法・地方交付税法も改正する。

b.地教行法の廃止

 憲法条文の教育に関する規定はシンプルである。また、準憲法としての基本法モデルは「教育基本法」である。しかし、市民性の涵養を教育の目的とすると、その目的を共有する「地域の政府」と「中央の政府」の分任関係は明確でない。旧教育委員会法を廃止して制定された、地方教育行政の組織と運営に関する法(地教行法)がもっとも制度疲労している。これを廃止し、全面的に「自治教育基本条例」に席を譲り、合わせて学校教育法の改正に取り組むべきである。日本の地方は、明治では小学校の設置、昭和後期では中学校の設置など施設的事務を中心にしてきたが、「地域の政府」としてスタートするためにはこの基本条例は不可欠であろう。

c.警察行政の改革

 なぜか憲法にはわたしたち市民が「安全に生活する権利」の条項がない。前文の平和的生存権や第13条(幸福追求権)が包括していると見るべきなのだろうが直截的ではない。それゆえ市民の安全を確保するサービスは、いまだ国家の「公共の安全」を確保する行政裁量の枠内から自立していない。とくに、自治体警察の廃止以来、市町村は「警察行政」への発言権もなく、都道府県警察は国家公務員による上級職独占という変則的制度のもとにある。「補完性の原則」は警察行政を例外とするモノではない。市民自衛権とそれに基づいた「地域の政府」の「市民の安全確保にかんする基本条例」がこの分野でも必要である。警察法は、地域の警察から分離され、「中央の政府」の警察の在り方に特化するかたちで、改正されるべきである。

d.生活保護法の改正

 憲法第25条は国民の権利と国の努力義務を記す。わたしたち市民が互いに助け合うことは人間の「生理」のようなものだからとくに憲法に記さなくてもよいが、社会の基礎である。
 また、「中央の政府」の努力と同様に「地域の政府」の努力義務もあり、「補完性の原則」からすれば、「地域の政府」の努力義務が第一義的である。市民の基本的人権として基本所得の保障などによる個人の自立を前提に、自発的助け合いを基盤としたうえで、「市民福祉基本条例」を法定し、「地域の政府」が保障義務を負い、それを補完するものとしての「中央の政府」の義務を位置づけるべきであろう。

e. まちづくり関連法の改正

 日本国憲法には、土地・土地利用・まちづくり計画などに関する具体的規定は一切ない。それゆえ、土地の公共性は薄れ、国土利用を政府各省(国土交通省・農林水産省・環境省)が分割して差配する現象さえ生まれる。また、個別には、財産権保障と公共福祉論のせめぎ合いが目立つ。まず、地区詳細計画・地区計画・土地利用計画・国土利用計画などわたしたち市民の計画策定権が「まちづくり基本条例」として明定され、「地域の政府」の責任で確立されなければならない。ここでも、「中央政府」の計画は補完的であり、広域型にとどまるべきである。

f.環境基本法の改正

 日本の環境行政が「被害後追い型」でかつ政府内で非力なのは「憲法に環境権規定がないから」というよりは、実際の環境法の多くがその立法過程で、経済活動優先の政治力学に負け骨抜き化されてきているからである。そのかぎりで、まったく憲法問題ではない。環境基本法の「経済調和条項」を削除して改正し、各地でうまれている「環境基本条例」に権限を付与すべきである。

(担当:須田春海)


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