市民立法機構 設立にあたって

1997.5.9

1 この提案のねらい

いまの日本社会においては民主主義がいたるところで形骸化しています。「官主導から民主導へ」というスローガンこそ注目されるようになりましたが、では、そのことを具体的にどのように実現するか、となると答えは簡単ではありません。

日本の「強すぎた官」は、いまその歴史的使命を終えようとしているわけですが、では「かわりうる民」とは何かとなると心もとなくなるのが現実です。

ここに提案する市民立法機構とは、こうした閉塞状態を打ち破るための一つの試みです。市民立法とは聞き慣れない言葉かもしれません。また、立法権は立法府、つまり議会にあるのではないかという反論もあるでしょう。それを承知の上で、あえてここで市民立法という言葉を選んだのは、新しいシステムを提案するには新しい言葉が必要であると考えたからです。

市民立法とは、市民がみずから政策およびその具体化である法を提案していこうというものです。もちろん、法のなかには自治体の条例も含まれています。国・自治体のいずれにおいても、こうした市民の参加をもっと積極的にしていこうと考えたわけです。市民の参加とは、単に要求を突きつけることではありません。みずから問題解決のために知恵と力を出すことです。そのためには、そうした知恵や力の結集点をつくっていかなければなりません。

「官」の一元的政策決定システムを、「民」の参加によって多元化し、政策決定イニシアティブに競争原理を加味しようという試みでもあります。

強大な「官」に市民は対抗できるのか、という疑問がうまれるでしょう。しかし、どんなに「官」が強大でも、生活の現場に息づく市民のネットワークの方が、はるかに強力であります。

その市民の政治参加が活発になることによって、市民の代替者である議員の立法活動も刺激され、議会の復権が見通されるはずです。

市民が各自治体、そして国政へ主体的に参加していく流れと仕組みをつくり、新しい市民社会を築き上げていくこと。これが、この提案の本質です。

なお、企業や労働組合、各種市民団体・グループ、およびそれぞれの構成員をここでは「市民」と総称することにしています。こうした「市民」がみずから法案を立案する「市民立法」があってはじめて、議員の法案提案は活発となり、議会が活性化すると思います。政治の復権はこうした活動の裏打ちがなければ実現しません。官僚主導ではなく市民主導へと日本の政治を転換させていくには、市民みずからも汗を流さなければならないと考えます。

2 基本的なスタンス

市民から提案された政策案や法律案が、市民の内部でおおむねコンセンサスが得られなければ、力にはなりません。そのためには、一般市民、労働界、経済界など、市民相互が対話と共同作業をする場が必要となります。市民立法機構とは、そのような対話と共同作業を行う場のことです。

したがって、ここには一般市民団体だけではなく、経済界や労働界も当然対等な立場で参加しますし、法律だけでなく各政策分野の専門家グループの参加も不可欠です。また、全国的または地域的な組織だけでなく、個人や個別の企業・団体も自由に参加出来なければなりません。

もちろん、共同作業をするにあたっては、ある程度、思いを共有することが必要でしょう。しかし、これを綱領のように考えて、それを抽象的にとりあげて論ずることは、あまり生産的とは思えません。むしろ、活動の積み重ねの上に、自ずと滲み出てくるものと考えます。また、この機構は無理やりにナショナル・コンセンサスの形成を目指すものとなってはいけません。

機構に参加するメンバーも常に固定的である必要はありません。ある問題についてはそれに関心のある諸グループ・個人が集って意見をまとめ、また、別の問題については別のグループがまとめる、というように参加構成メンバーが流動的でも構いません。むしろ、望ましいでしょう。

数を頼んだ圧力団体になることも機構の目的ではありません。筋の通った具体案を提示し、世論や政治の判断に委ねることが、この機構の目的です。特定政党、議員との結びつきも行いません。これは参加メンバーそれぞれの活動に任せるべきでしょう。

3 活動の原則

この機構は「場」を提供し、情報の結節点の役割を果たすものですから、従来型の大きな組織はつくりません。いわゆる「地方支部」も設けません。各地域はそれぞれ必要に応じて類似のものをつくり、その相互のネットワークを組んでいくことにしたいと思います。

したがって、既に活発な活動を行っているグループが存在し、その活動が私たちのめざすものと一致していれば、そのグループと連携をとりながら、さらに運動が広がり強化されるように、側面からの協力を行います。

また、専門とするグループがありながら必ずしも活動が活発でない場合には、そことの連繋を強め、時には作業を委託したりして、活動を促進するようにします。これまでどこも取り上げておらず、急いで取り上げるべきテーマについては、機構がみずから研究会などを組織して、取り組むようにいたします。

また、インターネットのホームページやパンフレットなどの活字媒体はもちろん、市民テレビ・ラジオなども将来の目標において、自前の情報の発信・提供によりさまざまなグループとの共通基盤をつくりだします。情報公開法の積極的活用も行い、市民による情報開示請求の先鞭をつけることも必要だと考えています。

さらに、市民立法を進めるためには、市民自身の直接的な力を強めるとともに、個々の問題意識を共有する議員集団や自治体首長・議員とのネットワーク形成も試みます。ただし、いかなる政党ともオープンなつきあいとします。

会員は、基本的には各界、各地で活動しているグループとします。ただし、研究者、専門家などは個人会員として参加を要請することにいたします。

機構の運営は、10〜20人程度の運営委員の合議で行います。事務局は市民運動全国センターと行革国民会議とが共同事務局を設けます。

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