「市民立法機構」の総括と展望―もう一歩踏み込んで―

1999.5.29

「市民立法機構」は、発足3年目を迎えた。市民社会の合意形成を目指す私たちの運動は、地味ながら着実に前進している。私たちのほかにも、さまざまなグループが、市民ベースでの政策立案、法律・条例の提案をめざして活動を始めている。今や、市民立法という言葉は日常語となりつつある。

過ぐる1年間に得られた最大の成果は、情報公開法の制定である。19年前にさかのぼる市民の運動により、私たちの「機構」が発足するのとはほぼ機を一にして、この法制定への動きが、官僚組織内部でも本格的に進んでいった。立法自体は、運動が直接国会につながったかたちの議員提案によるものではなかった。しかし、度重なる市民側の提案とそれをうけた野党共同提案などが、その後の作業の大きな土台となったことは間違いない。今回の法律は内閣提案によって行われた立法であり、様々な点で官僚勢の抵抗の跡が残されているものの、政治・行政をより透明なものにしていくことを通じて、市民の活動全体の幅を広げ、力強いものにしていくための突破口を開いたということができる。

この法律の実現に至る過程で特に大きな意義を持っているのは、狭義の市民運動と経済界との連携である。立法化の最終段階では、法制定推進の活動に有力経済人が何人か参画していた。「知らしむべからず」の官僚的統治がもたらした日本の経済・社会全般を覆う深刻な閉塞状況を克服するため、情報公開は個々人と企業双方の市民要求となったのである。

発足以来、市民立法機構が手がけてきた「小売容器負担金制度」も、関係する飲料メーカーや容器包装リサイクル協会などの業界関係者と私たちとの対話を通じて、法案の骨格ができつつある。

また、男女共働型社会の実現を促す税制や社会保障制度のあり方についても、研究者に経済界や労働界の有志も参加して、新たな枠組みを提案するための基礎作業が進んでいる。

「寄付金制度による市民活動のテコ入れ」については、法制化されたNPO制度のさらなる充実に向けて、特に所得税制上の具体策を検討してきた。不況が長びく中で企業からの“浄財”がとどこおりがちであることもあり、個人の寄付をもっとしやすくなる方策を打ち出すことが急務となっている。

1年前の総会で、私たちは企業関係者などとの連携をはかることによって運動の足場を築き、市民立法の実績を明確に示すことを目標として掲げた。この1年の歩みで不十分ながら目標は達成され、今後の前進に向けて着実に基礎が固まりつつあるといえよう。

次のステップを踏み出そうとする今日、注視しなければならないのは国会の状況である。情報公開法の制定は、私たちにとって貴重な成果だが、思えばその下地が作られたのは「一党支配」が崩れていた連立政権下の流動的な政治環境であった。いま自由民主党は、公明党などとの連携を強めながら、かつての「一党支配」を回復しつつある。私たちの立法活動が、スムーズに国会につながっていかない政治環境に戻りつつあるかもしれない。

こうした状況を踏まえ、私たち自身としては、これまでの作業を具体的な法案として結実させていくための作業に踏み込んでいくとともに、新たな課題にも取り組んでいかなければならない。とくに、国レベルだけでなく、自治体レベルでの作業に力を注ぐ必要がある。具体案をもとに、関係する企業、労働組合などとの対話を、より踏み込んだかたちで行うことができよう。より激しく厳しいやり取りになっていくことにもなろう。市民同士がいま一歩踏み込んだ対話を進めることによって、官僚システムの「調整能力」に頼らない市民による立法を、さらに前進させていこう。

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